タイ北部チェンマイ県のメーピン警察署管内の一軒家で4月20日午後、同居していたグンティー容疑者(35歳)が交際相手のヤードルンさん(33歳)を壁に強く押し付けて死亡させたとして逮捕された。ヤードルンさんは妊娠5ヶ月だった。胎児と合わせて母子2つの命が同時に失われたことになる。
警察は同日午後、住宅で女性が死亡しているとの通報を受けて駆けつけた。赤いタンクトップを着た遺体には複数の打撲痕が残されていた。グンティー容疑者は当初「妻が家の中で滑って転倒し、その衝撃で亡くなった」と事故死を主張していた。
当局は状況に不自然な点が多いと判断して取り調べを続け、容疑者は最終的に殺害を自白した。容疑者の供述によると、交際期間は約8ヶ月で、以前からヤードルンさんに言い寄っていた男たちへの嫉妬から口論を繰り返していた。当日も同じような言い争いがあり、ヤードルンさんから「お腹の子どもはあなたの子ではない」と告げられて感情を抑えきれなくなり、壁に叩きつけたとしている。
近所の住民の証言では、当日の午前1時頃から夫妻の口論と女性の泣き声が聞こえていた。別の家では息子が状況を聞きつけていたものの、家族はすべて「夫婦の問題」と判断し、警察に通報する者はいなかった。悲鳴のような音があった時点で止める行動が入っていれば、結果は違っていたかもしれない。
容疑者は報道陣の取材にうな垂れたまま「本当に申し訳ない」と謝罪して涙を流したものの、暴行の具体的な説明は拒んだ。警察は殺人容疑のほか、妊娠中の胎児に関連する罪状の適用を慎重に検討している。
タイでは家庭内暴力の被害が女性団体によって統計化され始めているが、地域社会や近隣住民の「夫婦喧嘩は口出ししない」という意識はいまも根強い。今回のケースは、その沈黙が一線を越えた犯行を止められなかった典型例として、地元のSNSで議論が広がっている。チェンマイは日本人の移住・長期滞在も多い街で、現地採用で働く日本人女性にとっても、隣の家で何が起きているかに耳を澄ます社会の側の課題は無視できない。