タイ北部スコータイ県からカンペーンペット県へ抜ける4車線の幹線道路で3月20日、配送業務中の男性が思いがけない事故に遭った。顧客宅の前で小包を届けるため路肩に立って待機していたところ、隣を通過したセミトレーラーの車輪が突然外れて飛来し、男性の体を直撃した。
男性は反対側の右車線から道路に背を向けて立っていた。左車線を走っていたはずのトレーラーから車輪がなぜ外れたのかは事故の時点では不明だが、外れた車輪はそのまま路面を跳ねて男性のすね付近と太ももに衝突した。
救急搬送された病院の診断では、右のすねの骨が2か所で折れ、太ももの筋肉が断裂して内部に大量の血腫ができていた。さらに頭部には大きな裂傷が残り、8針の縫合を受けた。病院は骨折部位に金属プレートを埋め込む手術を実施し、現在もリハビリが続いている。
被害者の婚約者が22日、事故の状況を地元で人気の社会支援ページ「サイマイ・トンロット」に投稿した。投稿のきっかけは、事故から1か月が経っても加害者側から見舞金や補償の話が一切出てこないことへの絶望感だった。
警察の仲介で事故から2週間後に警察署で加害者と話し合いの場が持たれたが、相手は補償の意思を示さず、謝罪の言葉すらなかったという。被害者家族はその後何度も連絡を試みているが、加害者側は電話や対面の呼び掛けにほとんど応じていない。
タイでは、営業用の大型トラックやトレーラーには強制第三者保険(Por-Ror-Bor)のほか、任意の総合保険加入が普及してきた。しかし小規模運送業者の中には任意保険に未加入のままで、事故発生時に個人責任で処理する形のまま被害者と向き合わないケースが繰り返されてきた経緯がある。
タイの労働関連法律でも、配送中の事故は業務上のけがに該当する可能性があり、勤務先と労働省の社会保障事務所(SSO)を通じた手続きが並行して走るはずだが、被害者側が一人で交渉を進めるには精神的にも体力的にも重い負担になる。今回のケースは、路上で働く配送業・ドライバーに対する補償スキームの穴を改めて見せつける形になった。
タイ駐在の日本人にとっても、配送サービスを日常的に使う立場として無関係ではない。路肩に立つ配達員の横を大型車が追い越すアジアの道路事情の中で、「車輪が抜ける」ような整備不良は、ある日突然、自分の業務車両のすぐ近くでも起こりうるリスクである。車列の後ろを走る時は十分な車間を空け、路肩の歩行者を守るドライバー自身の意識もまた問われている。