タイ北部ナコンサワン県パユーハキリ郡にある仏像鋳造工房で4月20日夕刻、溶接作業中に200リットルの古い燃料ドラム缶が突然爆発する事故が起きた。衝撃で工房の屋根に大きな穴が開き、近くにいた職人1人が吹き飛ばされて柱に叩きつけられた。
オーナーのアヌポン・コンチャントートさん(44)がFacebookアカウント「Tom Pakornlum」に事故の瞬間を撮影したクリップを投稿すると、あっという間に拡散し、地元メディアも22日に状況を取り上げた。大きな爆発音と屋根を突き抜ける火花、驚いて逃げ惑う人たちの姿がそのまま映っている。
事故が起きたのは閉店間際の夕方、従業員を早めに帰そうとアヌポンさんが1人で最後の溶接作業を進めていた時だった。使っていたのは、ある日500バーツで購入した中古の200リットル燃料ドラム缶で、これに鉄の部材を溶接して、仏像鋳造の作業台に仕立て直そうとしていた。
タイの地方工房でよくある「予算を抑えつつ機材を自作する」発想そのものだが、古い燃料ドラム缶は内部に揮発性のガスが残っているケースが珍しくない。今回もその蒸気を十分に除去しないまま火花が飛び、爆発に至ったとみられる。屋根のスチール板が大きく破れ、下にあった作業場は一瞬で散らかった。
幸い職人の負傷は腕の火傷程度で、命に別状はなかった。アヌポンさん自身も「急いでいたから、安全確認を飛ばしてしまった。完全に自分の不注意だ」と率直に非を認め、「閉店前の焦りで古いドラム缶を溶接するのは絶対にやめてほしい」と同業者に呼びかけるメッセージを添えた。
彼が紹介している対策は、タイの町工場でもすぐに実行できるシンプルなものだ。まずドラム缶の中を水でよく洗い、次に蒸気を完全に飛ばしてからでないと溶接しない。ふたや蓋をあらかじめ開けて空気を通し、火花が残ガスに触れる可能性をゼロに近づけるのが基本の工程である。
タイでは地方に数百件単位で小規模な鋳造工房が存在し、仏像・鐘・装飾品を地元の寺や個人向けに手がけている。日本のように溶接作業員の資格制度や労働安全衛生の監督が浸透していない現場も多く、こうした「命にかかわる自己流作業」はしばしば事故の種になる。
タイ駐在の日本人経営者や工場管理者にとっても、「安全基準を現地の慣行にそのまま合わせる」ことの危うさを改めて突きつけられる事例だ。今回のようなストーリーが一本の動画で拡散する時代だからこそ、安全教育と装置更新への投資が、現場の日常から浮き上がる重要性を増している。