タイ東北部ムクダハン県で7月2日の正午前、托鉢のため道を歩いていた僧侶の列に、1台のピックアップトラックが突っ込んだ。この事故で僧侶8人が死亡し、13人が重傷を負ったと警察が明らかにした。さらに衝撃的なことに、運転していたのは11歳の少年だったと報じられている。保護者の車を無断で持ち出して走らせていたという。歩いて修行する僧侶たちを巻き込んだ惨事に、タイ社会は大きな衝撃を受けている。
現場で5人、病院でさらに3人が死亡
僧侶たちは、ムクダハン県のワット・プーマノロム(仏足石をまつる寺)を出発し、ウボンラチャタニ県ナムクン郡を目指して歩く「トゥドン(頭陀行)」の巡礼の途中だった。事故が起きたのは、ムアン郡バンナシーヌアン地区の幹線道路沿いで、時刻は正午少し前の午前11時55分ごろ。徒歩で修行していた僧侶たちが、路上や路肩に倒れて散乱している状態で見つかった。駆けつけた救助隊や警察が応急手当てを施し、負傷者を次々と近くの病院へ搬送した。カオソード英語版によると、現場で5人の僧侶が死亡し、搬送先の病院でさらに3人が亡くなって、死者は計8人となった。重傷者は13人とされ、地元メディアには20人以上が負傷したと伝える報道もある。
運転していたのは11歳の少年
警察の初動捜査によると、トラックを運転していたのは11歳の少年で、保護者の車を無断で持ち出して走らせていたという。まだ運転免許を取れる年齢にはほど遠く、なぜ子どもがハンドルを握っていたのか、当時の状況の解明が焦点となる。少年の母親は、子どもが車を持ち出したことに気づいて慌てて警察に通報したものの、間に合わなかったと明かしている。警察は現場を封鎖し、鑑識や関係機関とともに事故の原因を詳しく調べるとともに、目撃者への聞き取りや証拠の収集を進めている。少年自身の刑事責任は年齢によって大きく制限されるため、車を管理していた保護者の責任を含めて問われる可能性がある。現時点で判明している情報は捜査当局や地元報道によるもので、今後の調べで変わる余地がある。
タイの「頭陀行」と道路事情
トゥドン(頭陀行)は、僧侶が寺を離れ、野宿を重ねながら各地を歩いて回る仏教の伝統的な修行だ。早朝や日中に一列で道路脇を歩くことも多く、交通量の多い幹線道路では車との接触リスクが常につきまとう。タイは交通事故による死者が多い国として知られ、世界保健機関(WHO)の推計でも、人口あたりの死者数は世界でも有数の高さとされる。歩行者やバイクが巻き込まれる事故が後を絶たず、路肩に十分な歩行空間が確保されていない道路も少なくない。今回のように、歩く人の列に車が突っ込む痛ましい事故は、これまでもたびたび起きてきた。
僧正が葬儀を庇護、負傷僧の治療も支援
事故を受けて、タイ仏教界の最高位である僧正(サンガラート)は深い哀悼の意を示し、亡くなった僧侶全員の葬儀を自らの庇護のもとで営むよう指示した。火葬にあたっては、僧侶一人ひとりに袈裟と白檀の花が贈られる。負傷した僧侶についても、治療のための支援を届けるとともに、国立仏教局を通じて容体の報告を随時受け、回復を祈るとした。国を挙げてこの悲劇に向き合う姿勢がにじむ。
敬われる僧侶を襲った悲劇
タイでは信仰が生活に深く根づき、僧侶は社会的に敬われる存在だ。徒歩で修行を続ける僧侶の姿は徳の高さの象徴とされ、沿道で合掌して見送る人も少なくない。それだけに、修行中の僧侶が数多く命を落としたことへの悲しみと憤りは大きい。しかも運転者が11歳の子どもだったとされることは、車両の管理や子どもの運転をめぐる問題に、改めて厳しい目を向けさせている。政府は近年、交通事故の削減を重点政策に掲げ、飲酒運転や速度超過の取り締まりを強めてきたが、若年者の無免許運転にからむ事故は今も後を絶たない。警察の捜査がどう進み、再発防止に向けてどんな対応がとられるのかが、これから問われることになる。


