バンコクで、中国人の女子学生が「バーチャル誘拐」と呼ばれる詐欺の被害に遭い、タイの警察に救出された。実際に誘拐されたわけではなく、詐欺グループにだまされて、自ら誘拐されたように見せかける写真や動画を撮らされ、それを使って家族に身代金が要求されていた。家族は約580万バーツをだまし取られたうえ、さらに高額の身代金を求められていた。
自分で誘拐を演出させられた21歳
被害に遭ったのは、香港に留学している21歳の中国人学生である。警察によると、詐欺グループはまず「海外留学には多額の資金証明が必要だ」などと持ちかけて、学生をだましたという。その後、学生は誘拐されたように装うよう仕向けられた。
学生は、ロープやベルト、ナイフ、ボディペイント、赤い口紅などを買わされ、それらで傷や血を装って、監禁されているかのような場面を自分で撮影した。詐欺グループは、その写真や動画を家族に送りつけ、身代金をゆすり取ろうとした。家族は5月19日から20日にかけて、香港ドルで約580万バーツ(約2,800万円)相当を振り込んだが、さらに約1,250万バーツ(約6,100万円)を要求された。
CCTVで発覚、タイ警察が5時間で救出
学生は、香港エアラインの便で6月1日の未明にバンコクへ到着していた。家族は追加の身代金の支払いを拒み、香港の警察に通報。タイの警察も捜査に乗り出した。
決め手となったのは、ホテルの防犯カメラの映像だった。学生は一人でチェックインしており、部屋に出入りした人物は誰もいなかった。これが「誘拐」という主張と食い違い、狂言だと判明した。警察はおよそ5時間の捜査で、バンコクのラートクラバン地区やサムットプラカン県バンプリー地区のホテルを特定し、学生を無事に保護した。
「バーチャル誘拐」という新手の詐欺
今回のような「バーチャル誘拐」は、実際に人をさらうのではなく、被害者本人を心理的に操って、自分で誘拐を演じさせる詐欺である。警察の説明によると、犯人はしばしば政府機関や警察の関係者を装い、被害者を「犯罪に関与している」と偽って脅す。恐怖を植えつけ、相手を思いどおりに動かすのが手口だ。
被害者は、人目につかない場所に移動するよう指示され、最終的に自分の誘拐を演出させられる。こうしてつくられた「証拠」が、家族を脅すための強力な道具になる。海外で学ぶ中国人を狙う例が相次いでいるとされる。
誰もが標的になりうる手口
タイの警察幹部は、今回の事件について「犯罪の手口がますます巧妙になっていることを示している」と警告した。被害者が、人身売買や強制的な犯罪に巻き込まれる危険もあるという。
この種の詐欺は、言葉や文化の壁で孤立しがちな留学生や旅行者が特に狙われやすい。身に覚えのない「犯罪の容疑」で当局を名乗る相手から連絡が来ても、まず疑うこと。一人で抱え込まず、家族や本物の警察、大使館に相談することが、被害を防ぐ何よりの手立てになる。犯人グループはまだ捕まっておらず、タイと香港の警察が資金の流れを追っている。