タイとカンボジアの国境地帯で、仏像や国旗の設置をめぐって両国の対立が再燃している。カンボジア外務省が、タイ側が係争地に仏像や国旗、有刺鉄線を設けたとして抗議したのに対し、タイ軍は「すべてタイの領内で行われた活動だ」と反論した。2025年末に戦闘の停戦が成立して以降も、両国の国境画定をめぐる火種はくすぶり続けている。
カンボジアが抗議する仏像と国旗の設置
カンボジア外務省は5月30日の声明で、タイ側がプレアビヒア県とオッドーミアンチェイ県と呼ぶ国境地帯の複数の場所に、少なくとも36体の仏像を設置し、2本の国旗掲揚塔を立てたと主張した。カンボジア側はこれを自国の主権と領土に対する侵害だと位置づけ、正式に抗議している。
カンボジアによれば、タイ軍は道路や大型の仏像といった恒久的な構造物を築き、コンテナや有刺鉄線で封鎖を固めているという。仏像が置かれた場所として、国境の出入境地点の周辺やいくつかの丘陵地帯の名が挙がっている。報道では、もともとこの一帯にあったヒンドゥー教のヴィシュヌ像に代わって仏像が設けられたとも伝えられており、宗教的な象徴の入れ替わりが対立をいっそう刺激したとの見方もある。
仏像や国旗、ヒンドゥー教の神像といった宗教的・国家的な象徴は、その土地が「どちらの国のものか」を示す主張として受け取られやすい。だからこそ、こうした構造物の設置は、単なる宗教行為を超えて、領有権をめぐる神経戦の道具にもなりうる。今回の応酬も、その典型といえる。
タイ軍「すべてタイ領内での活動」
これに対しタイ軍の報道官ウィンタイ・スワリー氏は6月2日、仏像や国旗、有刺鉄線の設置はいずれもタイの領内で行われたものだと説明した。仏像については、地域の住民や駐留する兵士を支えるための宗教的な目的であり、政治的な意図はないとの立場を示している。
国境地帯にどちらの国の主権が及ぶかについては、両国の見解が真っ向から食い違っている。タイはこの一帯を自国の領土とみなす一方、カンボジアは自国領への侵入だと反発しており、同じ場所をめぐって主張がかみ合わない状態が続いている。
2025年末の停戦後も続く国境のにらみ合い
タイとカンボジアの国境では、2025年に軍事的な衝突が起き、同年12月27日に停戦が成立した経緯がある。しかしその後も、国境画定が未解決のまま両軍がにらみ合う状況が続いており、今回の仏像をめぐる応酬も、こうした緊張の延長線上にある。
2025年の衝突では、国境付近で砲撃や銃撃が起き、双方の兵士や住民に犠牲が出たと伝えられた。停戦後も両国は相手の動きを「挑発」だと非難し合い、信頼の回復には至っていない。東南アジア諸国連合(ASEAN)の枠組みでの仲介や二国間協議による解決が模索されてきたが、国境画定という根本問題が片付かない限り、こうした小競り合いは形を変えて繰り返されかねない。
そもそも両国の国境は、フランス植民地時代に引かれた地図の解釈をめぐって長年争われてきた。2008年から2011年にかけては、世界遺産プレアビヒア寺院の周辺で銃撃戦に発展し、双方に死者が出たこともある。宗教的な象徴である仏像が新たな火種となっている今回の対立は、国境問題の根深さを改めて示している。