マレーシアが6月1日、タイ産のエビ5種の輸入を停止した。タイがマレーシア産のスズキ(白身魚)の輸入を規制したことへの報復措置とされ、報道では年間40億バーツ(約194億円)を超えるタイのエビ輸出が打撃を受ける恐れがあるという。隣国どうしの「報復の応酬」が、両国の水産物貿易を揺らしている。
エビ5種が対象、報復の応酬
マレーシアが輸入を止めたのは、ブラックタイガーやバナメイエビなど5種類のエビである。あわせて、スズキ(現地名カパン)の輸入には、マレーシア保健省の食品安全基準を満たすことを示す分析証明書の添付を義務づけた。マレーシア側は、これをタイへの「対等な対応」だと説明している。発端は、タイがマレーシア産スズキから残留物質が検出されたとして輸入を規制したことにある。これに対抗する形で、マレーシアがエビを狙い撃ちにした構図だ。規制は6月1日の発効直後から、すでに両国の国境での取引を混乱させているとされる。食品の安全は当然守られるべきだが、こうした衛生上の規制は、実質的に自国の産業を守るための貿易障壁として使われることもあり、線引きは難しい。
タイのエビ農家に走る不安
タイは毎年6,000〜8,000トンほどのエビをマレーシアに輸出しており、これはタイのエビ輸出全体のおよそ5%にあたる。決して小さくない市場が突然閉ざされたことで、エビ養殖農家や沿岸の漁業者に不安が広がっている。タイのエビ養殖協会や農家団体は、アヌティン首相あてに早急な支援を求める要望書を提出した。輸出先を失ったエビが国内市場にだぶつけば、価格の下落を通じて生産者の収入を圧迫しかねない。生産者は、値崩れを防ぐための買い支えや、新たな輸出先の開拓を政府に求めている。タイは世界有数のエビ生産国であり、水産物は地方の雇用を支える重要な産業だ。タイ産のエビは日本や米国にも数多く輸出され、日本のスーパーや飲食店でもおなじみの食材になっている。マレーシア向けは輸出全体の一部とはいえ、近隣の安定した市場を失う痛手は小さくない。
食品安全をめぐる隣国の駆け引き
今回の応酬は、表向きは食品の安全をめぐる規制の形をとっているが、実際には隣国どうしの貿易上の駆け引きの色合いが濃い。水産物は両国にとって重要な輸出入品目であり、規制が長引けば双方の生産者に打撃となる。タイ政府がマレーシアとの間でどう折り合いをつけ、農家への影響をどう和らげるかが問われている。生産者の間からは、報復の連鎖を避け、話し合いによる早期の解決を求める声がすでに上がっている。マレーシアとは陸続きで人やモノの行き来も多く、貿易上の摩擦が長引けば、水産物以外の分野や国境の往来にも影を落としかねない。