タイ中部カンペンペット県で、寺の塀を乗り越えて侵入し、干してあった僧侶の袈裟を頭からかぶって顔を隠したうえで寄付箱を盗んだ男が逮捕された。男は寄付箱を叩き割って中の現金を奪っており、防犯カメラにその一部始終が記録されていた。生活に困った末の犯行だったが、寺の聖性を逆手に取るような手口に驚きが広がっている。
逮捕されたのは35歳の男で、カンペンペット市警察が身柄を確保し、現場で犯行の再現を行わせた。警察によると、男は6月1日の深夜、市内の寺の塀をよじ登って境内に忍び込んだ。そこで干してあった僧侶の袈裟を見つけ、それを頭からかぶって顔を隠し、変装したという。
男が狙ったのは、寺の水道代や電気代、修繕費にあてるための寄付箱だった。人目につきにくい僧坊の脇に箱を運び、音が出ないよう、ガラス側ではなく木の側を手で叩き割って現金を抜き取った。残されたのは小銭だけだったという。奪った額は700バーツ(約3,400円)あまりで、男はこれを部屋代や食費にあてたと供述している。
犯行は防犯カメラにはっきりと写っており、警察は映像をもとに男を特定し、市内の宿泊先の部屋で逮捕した。取り調べに対し男は、仕事も金もなく生活に行き詰まっていたと認めた。袈裟をかぶったのは、たまたまそこに掛かっていたのを見つけて手に取っただけだと説明している。さらに、逮捕される前に覚醒剤を使用していたことも明らかになった。
タイでは、寺の寄付箱や賽銭箱が盗みの標的になる事件は決して珍しくない。多くの寺は地域に開かれ、夜間も人の出入りを厳しく制限していないため、侵入を許しやすい。各地の寺では防犯カメラの設置や寄付箱の固定といった対策が進められてきたが、それでも被害は後を絶たない。
男が口にした覚醒剤は、タイで「ヤーバー」と呼ばれる錠剤型のものだとみられる。一錠あたりの値段が安く広く出回っているため、薬物への依存が困窮や軽犯罪と結びつく例は各地で報告されている。仕事も金もないなかで薬物に手を出し、目先の現金を求めて寺に押し入るという今回の構図は、その縮図ともいえる。
男は、以前にもこの寺を訪れて金を無心したことがあったが、断られたうえに叱られたと話している。困窮した人が寺に助けを求めることはタイでは珍しくないが、それがかなわなかった末に、今度は盗みという形で寺に舞い戻った形だ。とりわけ僧侶の袈裟は仏教において神聖なものとされ、それを盗みの道具に使ったことへの反発は小さくない。信仰の場すら、貧困と薬物の影から無縁ではいられない現実をのぞかせる事件となった。