タイで、招かれた僧侶が読経する家を間違えるという珍事が起き、その様子を撮った動画がネットで話題になっている。出来事があったのは5月31日、プラチンブリー県シーマハーポット郡の住宅でのこと。麺店を営むこの家は、自宅での法要のためにスッティタム・クローンラン寺の僧侶を招いていた。
ところが、約束の時間の前に別の僧侶の一行が到着した。家主は招いた僧侶が来たものと思って迎え入れ、僧侶側も「これが頼まれた法要だ」と思い込んだまま、いつも通りに儀式と読経が始まった。家主は丁寧にもてなし、読経はとどこおりなく進んでいったという。
おかしいと気づいたのは、本来招かれていたスッティタム・クローンラン寺の僧侶たちが、あとから同じ家に到着したときだった。先に読経していたのは、隣県のサケオ県から来た別の一行だったのである。聞けば、そのサケオ県の僧侶を招いていた家は、わずか300メートルほど離れた場所にあり、しかもそちらも麺店を営んでいて、家主の名前までよく似ていたという。招く側と招かれる側がそろって取り違える、二重の偶然が重なった格好だ。
事情がのみ込めると、僧侶も家主も、その場に居合わせた人々もそろって大笑い。気まずさよりも、思いがけないハプニングを笑い合う和やかな空気に包まれたという。様子を撮影した動画はフェイスブックに投稿され、「お坊さんが家を間違えるなんて」「ご近所あるあるの規模が違う」といった声とともに広く拡散した。先に行われた読経そのものは心を込めて営まれたため、結果としてどちらの家にとっても功徳になったと、ほほえましく受け止める人も多い。
タイでは、新築祝いや法事、縁起をかつぐ節目などに僧侶を自宅へ招いて読経してもらう「タンブン(徳を積む行い)」が暮らしに深く根づいている。地域では複数の家が近い時期に法要を営むことも珍しくなく、僧侶を招く習わしが日常的だからこそ起きた、どこか人情味のある取り違えだった。招いた僧侶には食事や供物をささげ、読経を通じて徳を積むのがタンブンの基本で、家族の節目や故人の供養など、人生のさまざまな場面で営まれる。読経した相手が依頼主でなかったとしても、その場で積まれた功徳が消えるわけではない、と考える人が多いのもタイらしい。大きな騒ぎになることもなく笑い話として収まったところに、地域の穏やかな空気がにじんでいる。