タイ東北部ロイエット県のプノムプライ郡で、5月30日から6月1日にかけて、伝統の「ブンバンファイ(ロケット祭り)」が開かれた。雨季を前に、自作の巨大なロケットを空高く打ち上げて雨乞いをするイサーン地方の祭りで、政府はこれを地域の文化資本を生かした「ソフトパワー」と位置づけ、観光や地域経済の起爆剤にしようとしている。
空に轟く手作りの巨大ロケット
ブンバンファイは、竹や塩ビ管に火薬を詰めて作る巨大なロケット「バンファイ」を打ち上げる祭りである。集落ごとに時間をかけてロケットを仕込み、華やかに飾り付けた山車とともに練り歩いたあと、轟音とともに空へと放つ。どれだけ高く、長く飛ぶかを競い、見事に上がれば歓声が湧く。打ち上げに失敗した作り手が泥に投げ込まれるという、にぎやかな余興もこの祭りの名物だ。大型のバンファイは多くの火薬を積むため打ち上げには危険も伴い、過去には事故も起きていることから、近年は安全管理が課題になっている。プノムプライ郡の祭りは、イサーン各地で行われるブンバンファイのなかでも特に名高い。
雨乞いの祈りとイサーンの信仰
祭りの根っこにあるのは、雨季を前にした雨乞いの祈りである。古くからイサーンの人々は、天の神「パヤーテーン」にロケットを捧げて雨を願い、その年の稲作の豊作を祈ってきた。仏教の行事とも結びつき、今年は仏誕節(ウィサーカブーチャ)の時期に合わせて開かれた。乾いた大地に雨を呼び込むという素朴な願いが、地域の人々の手で何世代にもわたって受け継がれてきた。単なる火薬の打ち上げではなく、信仰と暮らしに根ざした行事である点が、この祭りの奥行きをつくっている。
山車と踊りでにぎわう数日間
ブンバンファイは打ち上げだけの祭りではない。期間中は、神話や民話をかたどった豪華な山車が街を巡り、伝統の踊りや音楽で沿道がにぎわう。ユーモラスで時に羽目を外した趣向も交じり、子どもから年配者まで地域の人々が総出で楽しむのが特徴だ。プノムプライ郡の祭りは数日間にわたって続き、近隣はもとよりバンコクなど遠方からも見物客が訪れる。雨季の到来を前に、地域が一年で最も活気づく時期でもある。
「ソフトパワー」で地域経済を動かす
近年は、この祭りをタイの「ソフトパワー」として打ち出す動きが強まっている。政府は、地方に根づく伝統文化を国の魅力として磨き上げ、観光や地域の所得につなげる狙いを掲げる。祭りの期間中は各地から観光客が集まって、宿泊や飲食、露店などにお金が落ちる。プノムプライの祭りは、文化的な価値を経済の力に変える事例として、行政や研究者からも注目されている。イサーンには地域色の濃い祭りや食文化が数多くあり、それぞれが観光の呼び水になりうる潜在力を持つ。一方で、伝統行事を見せ物や経済の道具にしすぎることへの懸念もあり、文化の継承と観光振興のバランスをどう取るかが課題として残る。