タイ深南部のナラティワート県で6月1日早朝、武装勢力の掃討作戦中に治安部隊員1人が銃撃戦で死亡した。武装した容疑者らは森林地帯へ逃げ込み、当局は終日捜索を続けたが、夕方までに身柄の確保には至らなかった。タイ南部では近ごろ襲撃や爆発が相次いでおり、治安の悪化が懸念されている。
夜明けの掃討作戦で起きた銃撃戦
作戦が始まったのは6月1日午前5時半ごろである。ナラティワート県チャネー郡ドゥソンヨー区のバンルーポ集落で、治安当局が武装勢力の容疑者を狙った掃討に入った。隊員が標的の家屋に近づいたところ、中から武装した男たちが現れて発砲し、銃撃戦になった。隊員側も応戦して周囲を封鎖したが、容疑者らはすきを突いて森へ逃走。現場には血痕が残されており、容疑者側にも負傷者が出たとみられる。亡くなったのは、トラン県出身の29歳の隊員で、頬と胸を撃たれ、搬送先の病院で死亡が確認された。深南部では、こうした掃討や警備の最前線に、レンジャーと呼ばれる準軍事組織の部隊が数多く投入されている。
4月の襲撃とのつながり
今回狙われた容疑者らは、4月1日に郡の副長官が襲われた事件に関与したとみられている。タイ南部の治安をつかさどる第4管区内部治安維持作戦本部は、この一味を「暴力的な集団」と位置づけている。容疑者の身元は明らかにされておらず、数時間に及ぶ追跡も成果なく、1日夕方にいったん打ち切られた。タイ南部では最近、警察署への攻撃や爆発、住民の巻き添えなど、暴力の波が再び強まっているとされる。パッタニーなど近隣県でも襲撃が報じられており、当局は警戒を強めている。
20年以上続く深南部の紛争
ナラティワート、パッタニー、ヤラーのタイ深南部3県では、2004年以降、マレー系ムスリムの分離独立を求める武装勢力と政府の対立が続いている。この地域はかつてパタニ王国として独自の歴史と文化を育み、住民の多くがマレー語を話すムスリムである点が、仏教徒が大半を占めるタイの他地域と大きく異なる。これまでに7,000人を超える死者が出たとされ、東南アジアでも長期化した紛争の一つに数えられる。武装勢力の中心とされるのはBRN(民族革命戦線)で、近年はマレーシアの仲介による和平対話も断続的に行われてきたが、目立った進展のないまま襲撃が続いている。標的は治安要員にとどまらず、過去には教員や僧侶、一般住民が巻き込まれたこともあり、地域社会は長く緊張を強いられてきた。経済の停滞や人口の流出も指摘される、息の長い課題である。観光や報道で取り上げられる機会は少ないが、検問や治安部隊の駐留が日常となっている地域で、日本を含む各国の政府もこの3県への渡航には注意を呼びかけており、一般の旅行者が足を踏み入れることはほとんどない。