タイ東北部スリン県シーカラブーミ郡(อ.ศีขรภูมิ)ナールン町(ต.นารุ่ง)ラーチャ・バムルン寺(วัดราษฎร์บำรุง)の高位僧侶2人が2026年5月26日、政府の経済対策プログラム「タイ助けタイプラス(ไทยช่วยไทยพลัส / Thai Help Thai Plus)」の登録窓口があるスリン市(アムプー・ムアン)のロビンソン店内クルンタイ銀行(ธนาคารกรุงไทย / Krungthai Bank)支店まで、隣郡を越えて来店した。「僧侶もタイ国民の一人。権利を失いたくない」と語り、自ら顔スキャンと本人確認を実施した。「このプログラムは本当に素晴らしい。国民を助けている。首相兼内相のアヌティン・チャーンウィーラクン氏に感謝。ずっと続けてほしい」とのコメントで、僧侶でも政府給付金プログラムを活用する事例として、タイ社会のSNSで関心を集めている。バンコク・チェンマイの大手寺院との対比で、地方寺院の僧侶の生活実態を浮き彫りにする話題となった。
ロビンソン店内クルンタイ銀行、登録初日から長蛇の列
事案の場面となったのは、スリン県アムプー・ムアン(ムアン郡)のロビンソン百貨店内に位置するクルンタイ銀行支店。「タイ助けタイプラス」の正式登録窓口の一つで、登録初日から長蛇の列となった。クルンタイ銀行はタイ政府の経済政策の決済バックエンドを担っており、給付金関連の登録は同行支店または同行のPaoTangアプリで処理される。
特に多かったのが高齢者層。デジタル手続に不慣れなため、子・孫と一緒に来店して「顔スキャン(face scan)」と「本人確認(identity verification)」を行うケースが目立った。「PaoTangアプリで自宅から登録できるはず」と聞かされていたものの、操作が分からないために銀行支店に並ぶ高齢者が後を絶たない状況。
高位僧侶2人、隣郡から徒歩で「権利を失いたくない」
注目を集めたのが、シーカラブーミ郡ナールン町ラーチャ・バムルン寺(Wat Ratbamrung)からスリン市まで来た高位僧侶2人。シーカラブーミ郡からスリン市は約30km離れた隣郡で、両郡を結ぶ公共交通は限定的。にもかかわらず2人の僧侶は「自分で登録したい」「権利を失いたくない」との思いから、移動を厭わず登録窓口に並んだ。
僧侶は記者の取材に対し、温かい声で「僧侶もタイ国民の一人(พระก็เป็นประชาชนคนไทยเหมือนกัน)。権利を失いたくない」と語った。タイの仏教戒律では、僧侶は経済活動を最小限に抑え、信徒からの寄進(タンブン)で生活するのが原則。一方で、修行・教学に必要な日用品や、寺院の維持費は経済支援が必要なため、政府の給付金プログラムは僧侶にも有効な支援となる現実がある。
「アヌティン首相に感謝、ずっと続けてほしい」
僧侶はさらに、現在のアヌティン政権への評価も語った。「このプログラムは本当に素晴らしい。国民を助けている。アヌティン・チャーンウィーラクン(นายอนุทิน ชาญวีรกูล)首相兼内相に大変感謝している。ずっと続けてほしい、すべてのタイ人のために」と、首相の名を挙げて謝意を述べた。タイの政治文化では、僧侶が特定の政治家を名指しで支持・感謝するのは珍しいため、この発言は政治的注目度の高いコメントとなっている。
タイ助けタイプラス、5/25登録開始
「タイ助けタイプラス」は、コンラクルン(คนละครึ่ง / Half Half、現金給付)の後継プログラムとして、アヌティン政権が肝煎りで始めた経済対策。タイ国民が対象店舗で買い物をする際、半額(または一定額)を政府が補助する仕組みで、消費活性化と零細店舗の支援を同時に狙う設計となっている。2026年5月25日から登録が開始され、初日30分で1,000万人が登録、24日終了時点で2,400万人が登録するという爆発的な反応を見せている。
給付金は6/1から利用開始、対象店舗も登録中
利用開始は2026年6月1日から。それまでに、国民は「Pao Tang」アプリで登録し、対象店舗(ร้านค้า / shops)もクルンタイ銀行に申請する必要がある。タイ全土の零細食堂・商店・市場店舗が対象店舗として登録できる仕組みで、消費者と店舗の両方からの参加が必要な構造。
僧侶が給付金を受け取ることは、戒律違反ではない
タイの仏教戒律(ヴィナヤ)では、僧侶は「金銭の所持・触手」を直接的には行わないとされているが、寺院運営費・教育費・医療費などの目的で、信徒や政府からの支援を受けることは認められている。タイの僧侶は身分証明書を持ち、医療保険(社会保障/30Bスキーム)も使えるため、政府の給付金プログラムの対象になることに法的・宗教的な問題はない。今回のシーカラブーミの僧侶の行動も、伝統的な戒律と現代的な社会制度の調和の一例と言える。
スリン県、シーカラブーミ郡の地理的特徴
スリン県シーカラブーミ郡は、スリン県東部に位置する。クメール文化の影響を受けた古いプラサート(クメール遺跡)があることでも知られ、観光と農業が主要産業。県中心地のスリン市までは約30kmの距離で、田舎の村と中心地を行き来する公共交通が限定的なエリア。今回の高位僧侶2人は、寺院の信徒の支援か、托鉢に出ていた経路を活用したのか、何らかの方法でスリン市まで来訪したとみられる。
全国の僧侶層、給付金プログラムへの理解広がる可能性
シーカラブーミの僧侶の事例が報道されたことで、タイ全国の僧侶層が「自分も登録できる」「権利を失いたくない」と認識する動きが広がる可能性がある。タイ国内の僧侶数は約30万人とされ、もし大半が登録すれば、給付金の受給者層に「僧侶」という新たなカテゴリが顕在化する。タイ社会の伝統的な寺院・僧侶観と、現代的な経済政策の交差点として、興味深い社会現象となるかもしれない。
