タイ警察副長官のトライロン・ピウパン警察中将(พล.ต.ท.ไตรรงค์ ผิวพรรณ / Pol. Lt. Gen. Trairong Phiwphan)は2026年5月25日、タイ国家警察本部(Royal Thai Police Headquarters)で記者会見を開き、カンボジア元首相フン・センが主張した「詐欺ギャングはカンボジアの航空会社ではなくタイを経由してカンボジアに入っている」との発言に正面から反論した。トライロン副長官は「詐欺の運用拠点はカンボジア国内に位置している」「取締りは運用センターに焦点を当てるべきであり、移動ルートに焦点を当てるべきではない」と明言。タイ・カンボジア国境地帯で中国系犯罪組織による越境密輸と人身売買、ピッグ・ブッチャリング型詐欺施設の運営が深刻化する中、両国の責任の所在を巡る応酬が表面化した。本日同日に発表された中国大使館の渡航警告(サケーオ警察恐喝事件)とも連動し、タイの治安と外交の複合的な課題が浮き彫りになる。
トライロン副長官「詐欺の運用拠点はカンボジア国内」
タイ警察副長官のトライロン・ピウパン警察中将は、5月25日タイ国家警察本部で記者会見を開いた。フン・セン元カンボジア首相の最近のインタビューでの「詐欺ギャングがカンボジアの航空会社を使わず、タイを経由してカンボジアに入っている」という発言に対し、タイ警察の公式立場として強く反論した。
「詐欺の運用拠点(operational bases)はカンボジア国内に位置している。タイは単なる中継ルートではない」「取締りは詐欺の運用センターに焦点を当てるべきであり、移動ルートに焦点を当てるべきではない」と、トライロン副長官は明言した。
フン・センの主張、タイ責任論を強調
フン・セン元首相(現在も実権を握るカンボジア人民党の最高顧問)が問題の発言をしたのは、最近のメディア・インタビュー。「カンボジアで活動している詐欺ギャングは、カンボジアの航空会社を使ってプノンペン国際空港から入国していない。これは記録で確認できる。彼らはタイを経由してカンボジアに陸路で入っている」という趣旨で、責任の一端をタイ側に転嫁する内容となっていた。
フン・センの発言は、カンボジア国内のシハヌークビル・ポイペット・バヴェットといった主要詐欺ハブの運営責任を、外部要因(タイ経由の人員流入)に振り向ける狙いがあったとみられる。
タイ警察「拠点に焦点」、両国責任の応酬
タイ警察の反論ポイントは「責任の所在」。詐欺ギャングがどこから来たかではなく、現在どこで運用されているかが重要であり、それはカンボジア国内の詐欺施設(scam compound)であるとの立場を明確にした。タイ警察としては、自国を中継ルートと位置付けられることに強く反対し、責任はカンボジア側にあると主張する形となる。
両国の責任応酬は、表面的には外交的応酬の様相を呈しているが、背景には地域全体で深刻化する中国系犯罪組織の越境活動という共通の構造的問題がある。
ピッグ・ブッチャリング型詐欺、シハヌークビル・ポイペット・バヴェット
カンボジアの詐欺ハブとして国際的に問題視されているのが、シハヌークビル(Sihanoukville)、ポイペット(Poipet)、バヴェット(Bavet)の3都市。これらは中国系犯罪組織が運営する「ピッグ・ブッチャリング(Pig Butchering / 豚の屠殺)」型ロマンス詐欺・投資詐欺の拠点として、世界中の被害者からデジタル資金を奪う巨大ネットワークの中核となっている。
被害者は当初SNSで知り合った相手から仮想通貨投資を勧められ、徐々に大金を入金させられた後、出金できなくなるパターンが定型。被害額は世界で年間数十億ドル規模と推定され、被害者には日本人・タイ人・欧米人・中国本土人など多国籍にわたる。
詐欺施設で働く労働者、人身売買と監禁
シハヌークビル・ポイペット・バヴェットの詐欺施設では、東南アジア各国の若者が「高給職」と騙されて連れてこられ、パスポートを取り上げられて詐欺業務を強要されるケースが多発している。逃亡しようとすると暴行・拘禁・売買・臓器売買などの危険にさらされる。タイ警察も、被害タイ人若者の救出オペレーションを断続的に実施してきた経緯がある。
本日同日のサケーオ警察恐喝事件と関連
本日2026年5月25日にタイ国内で報道された別件、サケーオ警察恐喝事件(警察官6人+民間人1人が中国人国民5人を恐喝した容疑で起訴)とも、本事案は密接に連動する。(関連:サケーオで警察が中国人5人を恐喝、警官6人起訴、中国大使館が渡航警告で観光-30%懸念)。タイ-カンボジア国境地帯は、不法入国者・詐欺関係者・人身売買・違法労働者などが集中する地域で、両国警察の責任分担と国際協調が深刻な課題となっている。
アヌティン政権、国境管理と外交の難題
アヌティン政権はマレーシア仲介の南部和平交渉再開、フランス企業誘致、観光振興など外交・経済面で複数の前向きな動きを進めている一方、タイ・カンボジア国境の犯罪問題、中国観光客市場への打撃、警察の汚職スキャンダルといった国内治安・外交の難題に同時並行で取り組まざるを得ない状況。トライロン副長官のフン・センへの反論は、こうした複合的な圧力の中で、タイ警察の立場を明確に示す重要な発言と位置付けられる。




