タイ東部チャンタブリー県カオキッチャクート郡クロンプルー町(ต.คลองพลู อ.เขาคิชฌกูฏ จ.จันทบุรี)の果樹園で2026年5月25日、地元住民から「アイ・ムア」と呼ばれていた野生オス象「プラーイ・コーケーオ(พลายกอแก้ว)」が、果樹園の水池の縁で射殺された状態で発見された。約30歳・80cm超の長い牙を持つ立派な体格のオス象で、6箇所以上の銃撃傷を耳の付け根、胸、腹、前脚の付け根に受けていた。カオキッチャクート国立公園所長チャウィンタ・ピンケーオ氏、カオキッチャクート警察署、警察証拠課、シーラチャの動物医療チームが合同で現地検視と解剖検視を進めている。タイ社会で長年問題となってきた「人と象の対立(Human-Elephant Conflict)」が、聖地カオキッチャクートでも深刻な状況にあることを浮き彫りにする事件。
カオキッチャクートの聖地、果樹園の水池の縁で発見
事件現場はチャンタブリー県カオキッチャクート郡クロンプルー町の果樹園内、水池の縁。カオキッチャクート(เขาคิชฌกูฏ / Khao Khitchakut)は、タイ仏教徒にとって重要な巡礼地で、毎年1月下旬から3月にかけて山頂の仏足跡を訪れる巡礼者で賑わう聖地。山域の周辺はランブータン・マンゴスチン・ドリアン・ロンガンといった果樹園が広がっており、野生象が果樹を食べに山から下りてくる被害が長年続いていた。
「プラーイ・コーケーオ」、約30歳の立派なオス象
被害象の身元は、地元で「プラーイ・コーケーオ(พลายกอแก้ว / Plai Ko Kaeo)」と呼ばれていた野生オス象。「プラーイ(พลาย)」はタイ語で「オスの野生象」を意味する尊称で、80cm超の長い牙を持つ象に与えられる呼び名。コーケーオは約30歳、体格は立派で、長い牙が特徴。地元住民は別名「アイ・ムア(ไอ้มั่ว)」とも呼んでおり、果樹園に頻繁に出没することで知られた個体だった。
銃撃傷6箇所、耳・胸・腹・前脚に集中
検視の結果、コーケーオの遺体には銃撃傷と思われる重傷(บาดแผลฉกรรจ์ / severe wounds)が6箇所以上確認された。創傷の位置は以下の通り。
- 耳の付け根(กกหู / behind ears)
- 胸(หน้าอก / chest)
- 腹(ท้อง / abdomen)
- 前脚の付け根(โคนขาหน้า / front leg base)
すべて致命的な部位で、複数の銃弾を連続で命中させる必要がある攻撃形態。1発の事故的な銃撃ではなく、明確な殺意を持った犯行と判断される構成となっている。
国立公園・警察・獣医の合同検視
事件発覚後、現地に出動したのは以下の機関。
- カオキッチャクート国立公園(อุทยานแห่งชาติเขาคิชฌกูฏ): チャウィンタ・ピンケーオ所長(นายชวินทฐ์ ปิ่นแก้ว)
- カオキッチャクート警察署(สภ.เขาคิชฌกูฏ): ヨーター・チャートチューチョン警察大佐(พ.ต.ท.โยธา เชิดชูชน)
- 警察証拠課(กองพิสูจน์หลักฐาน): 弾道検査
- 自然資源・環境省第2地域シーラチャ事務所(สบอ.2 / Sriracha Office): 獣医チーム
合同で現場検視を実施し、現在は解剖検視で銃弾の種類・口径・発射距離の特定を進めている。これらの情報から、犯人の特定に進む方針。
「人と象の対立」、カオアンルーナイ野生動物保護区から南下
野生象が果樹園に侵入して農作物を食害する「人と象の対立(Human-Elephant Conflict / HEC)」は、タイ東部のチャチェンサオ・チャンタブリー・サケーオ地域で長年深刻化している問題。山域のカオアンルーナイ野生動物保護区(เขตรักษาพันธุ์สัตว์ป่าเขาอ่างฤาไน / Khao Ang Rue Nai Wildlife Sanctuary)を主要生息地とする野生象の群れが、季節によって周辺の果樹園・農地に下りてきて作物を食害する。住民にとっては年間の収入が直撃する深刻な問題で、農民と象のトラブルが繰り返されてきた。
法的には野生象殺害は重罪
タイの野生動物保護法(พระราชบัญญัติสงวนและคุ้มครองสัตว์ป่า พ.ศ.2562)では、野生象は保護動物のうち最も厳格な「絶対保護動物(สัตว์ป่าสงวน)」に分類され、許可なき捕獲・殺害は最大15年の懲役+150万バーツの罰金の対象となる。今回のように銃器で野生象を射殺する行為は、明確に同法違反の重罪に該当する。警察は遺体の銃弾と、近隣果樹園所有者の所持する銃器の比較鑑定、防犯カメラ映像の確認、関係者の聴取を急いでいる。
SNSで動物愛護家から強い怒り
タイ国内SNSでは、本事案が瞬く間に拡散している。動物愛護コミュニティと環境保護団体から強い非難が集まり、「30年生きた立派なオス象を射殺するなんて」「果樹園被害の解決方法はあるはず」「タイの野生象が消滅する前に対策を」などの声が広がっている。タイの野生象の総数は約3,000-4,000頭と推定され、生息地の縮小・人との対立で個体数が減少傾向にある中、今回のような事件は種の保全への危機感を改めて強める材料となっている。
解剖検視結果待ち、犯人特定が焦点
カオキッチャクート警察と関係機関は、解剖検視で銃弾の特徴を特定し、近隣の果樹園所有者・狩猟経験者・銃器所持者などの聴取を進めている。タイの東部地域には密猟・違法狩猟のネットワークも存在するため、こうした組織犯罪との関連性も視野に入れた捜査が続けられる。プラーイ・コーケーオの命を奪った犯人の特定に向けた捜査が焦点となる。