タイ特別捜査局(DSI)の諜報トレース部が5月20日、バンコク特別刑務所の門の前で1人の男を逮捕した。名はカソム氏。同日、別件の刑期を満了して刑務所から出てきたばかり、つまり数分前まで「自由」だった人物だ。
DSIが手にしていたのは、刑事裁判所令状1669/2566(2566年5月30日付)。罪名は共同マネーロンダリング。事件番号は特別案件36/2563、つまりあの「Forex-3D」事件に絡む摘発だった。
カソム氏は出所して刑務所敷地を出た直後、待ち構えていた捜査官に身柄を確保された。その場で逮捕状を読み上げられ、撮影・録音が継続されたまま、そのまま刑事裁判所への勾留請求の手続きへ。出所手続きの書類のインクが乾く前に、もう次の刑務所行きの段取りが始まっていた、という構図だ。
Forex-3Dというのは、主犯のアピラック氏らが「Forex(外国為替)取引で利益の60〜80%を還元する」「元本は100%保証する」と謳ってネットで投資を募り、www.forex-3D.com とフェイスブックアカウント「Apirak Krub」を窓口にしていた巨大な投資詐欺案件だ。タイの近年の経済犯罪の中でも、被害人数・著名な被害者の顔ぶれ・社会的な反響のすべての面で、突出して大きい事件として記憶されている。
DSIによれば、カソム氏はその詐欺で得た金を使ってさまざまな資産を購入し、金の出どころを隠す役割を担った疑いがある。資金を直接騙し取る側ではなく、その後の「資産化」を担う立場だ。表からは見えにくいポジションだが、この部分が押さえられないと被害金は回収できない。Forex-3Dの捜査が事件発覚から何年も続いているのは、まさにこのレイヤーを1人ずつ剥がしているからだ。
ところで、刑務所の門前で出所者を捕まえる、という絵面はタイのニュースでわりと定期的に見かける。今回もまさにそれで、DSIが事前に出所予定を把握し、令状を持って門前に陣取り、出所した瞬間に職務質問という流れ。被害者の感情からすれば「逃さなくてよかった」となり、容疑者からすれば「数分間の自由」が虚しく終わったということになる。
これだけ大規模で長期化している事件だと、容疑者の1人が捕まったというニュースだけでは「で?」と感じる読者もいるかもしれない。だが、Forex-3Dは関係者の人数が多く、お金の動きも複雑だ。1人1人の身柄確保と資産凍結の積み重ねでしか、被害者への返金原資はつくれない。DSIが出所のタイミングまで几帳面に追っているのは、その地味な作業を諦めていないという意思表示でもある。
