EU(欧州連合)がタイ人旅行者向けに「Visa Cascade(ビザカスケード)」措置を適用すると発表した。タイ語紙Matichon/Prachachatが5月18日報じた内容によれば、シェンゲン圏旅行履歴に応じてビザ有効期間が段階的に延長される仕組みで、過去2年で3枚のシングルエントリービザ使用→1年マルチエントリー、1年マルチ使用→2年マルチ、2年マルチ使用→最大5年マルチエントリーまで拡張される。総合的に4〜5年でタイ人申請者は5年マルチエントリービザに到達可能となり、シェンゲン旅行の手続き負担と費用が大幅に軽減される。在タイ日本人で配偶者がタイ人の場合や、タイ人の家族・友人がいる場合、シェンゲン旅行計画への影響は大きい。
Visa Cascade制度の全体像
Visa Cascade(ビザカスケード)は2025年7月24日からEU全体で正式運用が開始された制度で、(a)旅行履歴のある申請者を優遇、(b)EU旅行ルールを遵守してきた申請者へ報酬を与える、という設計思想に基づく。
仕組みは「階段(cascade)」と呼ばれる4段階構造だ。
第1段階:通常のシングルエントリービザ(90日以内の短期滞在)。
第2段階:過去2年で3枚のシングルエントリービザを使用 → 1年マルチエントリービザの取得可能。
第3段階:1年マルチを過去2年で使用 → 2年マルチエントリービザの取得可能。
第4段階:2年マルチを過去3年で使用 → 5年マルチエントリービザの取得可能。
つまり、シングル→1年→2年→5年と段階的に拡張する仕組みで、合計で4〜5年かかる計算だ。
タイ人の対象範囲
EU Visa Cascadeはすべての国籍に適用される一般制度だが、タイにとっては特別な意義がある。
タイは2025年7月以降、EUとの間で(a)観光ビザ免除30日の継続、(b)Visa Cascadeの段階的承認、(c)ETIAS(欧州渡航情報認証制度)の手続き整備、を進めてきた。今回のCascade適用は、こうしたEU-タイ二国間関係の深化の一環だ。
タイ人にとってのメリットは次のとおり。
第1に、複数年のマルチエントリービザにより、シェンゲン圏への頻繁な渡航(ビジネス・観光・家族訪問)が容易になる。
第2に、ビザ申請の手間・費用が大幅に軽減(毎回80ユーロのビザ料金、申請書類準備、面接予約などが不要に)。
第3に、長期旅行・複数国ツアーの計画が立てやすい(フランス→イタリア→スペインなど)。
重要な制限—180日中90日ルールは変わらず
ただし、Cascadeでマルチエントリービザを取得しても、シェンゲン圏内の総滞在期間は「180日中90日まで」というルールは変わらない。
つまり、5年マルチエントリービザでも、5年間ずっとシェンゲン圏に滞在できるわけではなく、(a)1回の入国で最大90日、(b)直近180日間の合計滞在が90日以下、を維持する必要がある。
これは長期居住を目的とする場合(留学・就労・家族再統合)、別途長期滞在ビザ(National Visa Type D)の申請が必要になる。
違反者は対象外
Cascade制度は「良好な旅行履歴」を前提とする。次のいずれかに該当する申請者はCascadeのメリットを享受できない。
第1に、過去にオーバーステイ(90日制限超過、許可された滞在期間超過)の記録あり。
第2に、シェンゲン圏内で違法労働の記録あり。
第3に、犯罪歴・入国拒否歴あり。
第4に、申請書類の不備・虚偽申告。
タイのSNSでは「過去にビザ違反したことがある人は気をつけて」という注意喚起も拡散している。
ETIASとの関係
Visa Cascadeと並んで重要なのが、EU入国時の電子認証制度ETIAS(European Travel Information and Authorisation System)だ。ETIASは2026年中の本格運用開始予定で、シェンゲン圏入国前にオンラインで事前申請する電子渡航認証。
タイ人については、(a)ビザ免除滞在(短期観光)にはETIASが必要、(b)Cascadeで取得したマルチエントリービザ保有者はETIAS不要、という関係になる。Cascadeでマルチエントリービザを取得するメリットは、長期的にはETIASの手間を省く意味も持つ。
関連背景
タイ駐在員家庭にとって、Visa Cascadeの活用シーンは次のとおり。
第1に、タイ人配偶者・パートナーとの欧州旅行。配偶者のCascadeビザ取得で、頻繁な家族旅行が容易になる。
第2に、タイ人スタッフ・取引先のビジネス渡航サポート。日本企業のタイ法人で、タイ人スタッフを欧州出張に派遣する場合、Cascadeで長期マルチエントリービザを保有していると、出張手続きが激減する。
第3に、タイ人留学生の家族訪問。タイ人学生が欧州留学中、家族(タイ国籍)がシェンゲン圏で頻繁に訪問するケースで有用。
第4に、観光ビジネス(旅行代理店、現地ガイド、ホテル業)の駐在員には、タイ人観光客のリピーター率向上が見込まれる。
タイ-EU観光・経済関係の今後
EU Visa Cascade適用は、EU側がタイを「信頼できる旅行者輩出国」と認めた象徴だ。今後の動きとして次が想定される。
第1に、タイ人欧州旅行者の増加(観光・ビジネス両面)。
第2に、EU-タイ間のFTA(自由貿易協定)交渉の進展。
第3に、タイ-欧州航空便の増便(タイ航空、エミレーツ、ルフトハンザ等)。
第4に、ETIAS本格運用後のオンライン手続きとCascadeの組み合わせによる、シェンゲン圏旅行の合理化。



