タイのホテル業界と主要外国人観光業者が5月10日、政府に対して観光産業の危機悪化への対応を緊急要請した。4月の外国人観光客到着数は前年同月比7%減、パッタヤのホテル稼働率は通常の低シーズン60-70%から30-40%まで急落。カオサン通りでは予約が20%減・客単価が1000バーツから700-800バーツに縮小と、二重の打撃に見舞われている。観光収入に依存するタイ経済全体への波及が懸念される事態だ。
業界の苦境を象徴するのがパッタヤだ。チョンブリ観光連盟会長は「通常の低シーズンでも稼働率60-70%は確保できていたが、今月は30-40%まで落ち込んでいる」と危機感を表明。バンコクのバックパッカー街カオサン通りビジネス協会長も「予約数が前年比20%以上下回るうえ、客単価は1人1000バーツから700-800バーツへと縮小、観光客減と購買力低下の二重苦」と説明している。
業界が政府に求める支援策は具体的だ。短期的には、(1)国内線航空券補助プログラム「タイ・テアオ・タイ・プラス」の復活、(2)リモートワーク推奨日の統一による国内旅行需要の喚起、(3)地方会議・MICEイベントの開催支援、(4)アジア地域への国際線接続強化。中長期的には、太陽光発電・EV導入を通じたホテル・運輸コスト削減、2026年FIFAワールドカップの無料放映による集客促進などが提案されている。
市場別の動向では、中国・インド・短距離アジア(香港・台湾・マレーシア・韓国)が引き続きタイの主要送客元として頼みの綱となっている一方、ヨーロッパからの到着が大幅に減少している。これは円安バーツ高の継続、ヨーロッパ経済の停滞、長距離移動コストの上昇などが複合的に影響した結果と見られる。タイ政府は5月9日に代々木公園でのThai Festival Tokyo 2026で日本人観光客120万人誘致目標を打ち出すなど、東アジア市場へのシフトを加速している。
問題の根は構造的だ。プーケットを含む南部観光地では、アヌティン首相自らフリーダム海岸侵食を視察するなど、海岸の不法占有・マフィア化・観光客への詐欺といった「観光地ガバナンス」の問題が連日報じられている。5月10日にもパッタヤ・インド人協会会長が「両替詐欺」警告を発するなど、安全イメージの毀損が訪問意欲を冷やしている可能性もある。
一方、タイ空港公社AOTは5年800億バーツの空港拡張計画、フリービザ滞在期間60→30日への短縮加速、エリートビザ運用見直しなど、相反する政策が同時進行している状況だ。インフラ拡張・人材確保で攻めの観光戦略を取りつつ、入国制度の引き締めで守りに転じる二面性が、業界の混乱を増幅している。
タイ在住の日本人駐在員にとって、観光業の停滞は間接的に住居選び・通勤・物価にも影響する。バンコク・パッタヤ・プーケットの観光地区では、ホテル・コンドミニアムのオーナーが家賃を引き下げる動きも出始めており、長期滞在者には逆に有利な条件を交渉できる時期となる可能性がある。一方で、ガストロノミーや観光客向けサービスの撤退・縮小も進めば、地域の生活機能の低下にもつながる。