中国大使館(在タイ)の報道官が5月10日、チョンブリ県で軍用銃と爆発物を保有していたとして拘束されている中国人ミンチェン・サン氏(31)の事件について公式声明を発表した。「中国は現地法に違反したり、海外で犯罪を犯した中国国民を保護することはない」と明言し、タイ司法プロセスへの不介入の姿勢を示した。同時に「タイとの法執行協力を強化し、越境犯罪に対処する」とも述べ、二国間の協力枠組みでの対応を約束した。
声明はメディアからの照会への回答として発表された。中国大使館は「事案を高い重要性で扱う」とした上で、「中国国内の関係当局がミンチェン・サン氏の身元・背景情報の確認作業を進めている」と説明。タイ警察に対しては、捜査に必要な情報・資料の提供で全面的に協力する姿勢を示している。
「中国国民を保護しない」という発言は、外交免除(diplomatic immunity)の付与を行わず、タイの司法プロセスへの介入もしないという意味だ。今回のミンチェン・サン氏は5月8日にチョンブリ県ナーチョムティアン警察署管内で車両転倒事案を起こした際、車内から軍用銃が発見されたのが発覚の発端で、家宅捜索で軍用銃M4 2丁、C4爆薬4個(計8ポンド)、手榴弾4個、対人地雷4個を含む武器庫が発見された。
中国大使館の対応は、近年の「中国の海外犯罪者保護」批判への正面からの対応とも読める。中国は近年、フィジー・タイ・カンボジアなどでの中国人犯罪集団の活動が問題化するたびに「自国民を取り戻す」「中国の刑事司法権を主張する」アプローチを取ってきたが、今回はタイ司法に従う姿勢を明示した形だ。背景には、アヌティン首相が「最深部まで捜査拡大」を指示しBHQ越境犯罪組織との関連も視野に入れた強い姿勢、そしてタイ・中国間の警察協力枠組みが既に整備されている事情がある。
ただし「保護しない」と「中国国内での身元背景を共有する」は別問題。中国当局は依然としてミンチェン氏の中国本土での経歴・職歴・関連組織については詳細を公表していない。タイ警察庁は本日5月10日にもジャオ・ヘープを含む元海軍兵5人目の拘束に至るなど、銃売買ネットワークの全貌解明を進めているが、ミンチェン氏個人の動機と背後の組織関係の解明には中国側の協力が不可欠となる。
タイ・中国の関係性は近年、観光・経済・治安の各方面で深化している。観光面ではフリービザ滞在期間を60日から30日に短縮する見直しが急ピッチで進行中。治安面では、同日にも香港の民主活動家Zhang Xinyan氏(55)がビザ超過で拘束され中国本土送還の見通しとなるなど、中国・香港・タイの捜査連携が同時並行で動く。
タイ在住の日本人駐在員にとっては、今回の中国大使館の姿勢は「外国人犯罪に対する駐在国大使館の対応の標準形」を示す事例として参考になる。日本人がタイで重大事件に巻き込まれた場合も、日本大使館は当該国法に従う基本姿勢を取り、領事保護の範囲内(弁護士紹介・家族連絡など)で支援する。「外交保護」と「領事保護」の違いを正確に理解しておくことは、海外滞在者全般の自衛として重要だ。