カンボジア当局が5月4日に開始したポイペトでの大規模スキャマー一掃作戦の影響で、これまでに635人のタイ国民がクロンルック国境検問所からタイ側に帰国した。一方で、依然として約1万人がポイペト側に滞留しているとされ、タイ陸軍と警察は帰国者を「被害者か加害者か」で振り分ける選別作業に追われている。スキャマー認定された場合は刑事訴追される厳しい運用だ。
カンボジア・タイ国境の街ポイペトは、ここ数年「中国系グレー詐欺集団」の本拠地として国際的に注目されてきた。Star Go(スターゴ)カジノを含む複数のオンラインカジノ施設で、強制労働させられた外国人労働者が世界中の被害者に向けてオンライン詐欺・暗号資産詐欺・恋愛詐欺を仕掛ける構造があった。カンボジア政府は5月4日、警察を動員してポイペト全域でスキャマー集団の一斉摘発を開始した。
タイ側の対応は二重戦略だ。一方で、強制労働被害者として帰国を希望する数千人を受け入れる人道措置を進める。他方で、スキャマー側の人物(自ら詐欺に従事した者)が紛れて帰国するのを警戒し、選別審査を厳格化している。クロンルック国境では、タイ陸軍と警察が635人を受け入れたと公表したが、内訳の被害者・加害者の比率は明らかにされていない。
国境の脆弱性も浮上した。「クロンプロムホット」と呼ばれる非正規越境ポイントでは、タイ軍人警備兵がタイ国民5人(男性3人・女性2人)を不法越境で逮捕。別の報道では、22人の不法越境者を拘束し、うち1人のタイ人男性が「コールセンター集団に関係する携帯電話」を隠し持っていたとされる。23歳の若いスキャマーが「スターゴで働いていたが、自分で受注を取ろうとしてカンボジア当局に捕まった」と自供する事案も出ている。
ポイペトのスキャマー拠点は、タイ・カンボジア国境のもう一つの拠点オースメット(Or Smach)と並ぶ、地域最大級のオンライン詐欺発信地で、タイ国民への被害も年間1153億バーツ規模と推計される。今回のカンボジア政府の取り締まりは、米国・タイ・国連等の長年の圧力を受けた結果と見られる。アヌティン首相とフン・マネット首相の5月7日のセブASEAN三者会談後の協力ムードがこのタイミングと重なる。
ただし「約1万人が依然滞留」という数字は深刻だ。被害者として保護を求める人々が国境を越えられず、スキャマー集団の支配下から逃げ出せない状況も継続している。タイ側はクロンルック以外の主要国境での受け入れキャパシティ拡張、被害者保護の体制構築、加害者の刑事責任追及の3軸で対応を続ける必要がある。
タイ在住の日本人駐在員の家族・元駐在員にとっては、「ポイペト発のオンライン詐欺」は実は身近な脅威だ。タイ警察を名乗る電話、税関手続き偽装メッセージ、SNSでの恋愛接近、暗号資産投資勧誘などの典型パターンの多くが、ポイペト・オースメットの詐欺リゾートから発信されている。今回の一掃作戦が短期的に詐欺総量を減らす効果は期待できるが、別の国(ミャンマー、ラオス)への移転も予想されるため、警戒は継続する必要がある。