カンボジア軍がタイ国境のチョン・タレン地区で、森林産物の採取に出かけていたスリン県プラサート郡在住の58歳タイ人男性を不法入国の容疑で拘束していたことが5月10日に判明した。タイ陸軍第2軍管区はスラナリ部隊から報告を受け、家族と現地行政・警察と連動して身柄解放に向けた調整を急いでいる。
男性は4月25日朝に自宅を出てから連絡が途絶え、15日以上にわたって行方不明となっていた。4月30日にFacebookアカウント「Wiparat Thongsaysorn」が、スリン県のチョン・タレン国境沿いで森林採取に出かけた親族の捜索を呼びかけたことから事案が公になり、軍・警察・行政の合同情報班が現地調査に入って失踪者の身元が確認された。
拘束場所はスリン県カープチュン郡のチョン・タレン国境地帯。タイ・カンボジア国境のこの一帯は森林産物の採集ルートとして地元住民が古くから出入りしてきた地域だが、2025年以降の国境紛争を受けて両軍の警戒が強化されており、地元住民の越境がそのまま不法入国扱いとなる事例が続いている。
タイ・カンボジア国境では直近、ブリーラム県でタイ住民2人がカンボジア兵に発砲された蛙取り事件や、その続報として元軍曹がカンボジア兵の訛りで身元を断定など、住民を巻き込む事件が相次いでいる。今回の拘束も同じく、生活のため越境した一般住民が国境警備の網にかかる構図に重なる。
カンボジア側がどの容疑を最終的に主張するか、本人の状態や扱いがどうなっているかは現時点で公表されていない。第2軍管区は、軍同士のホットラインを通じて確認と引き渡し交渉を続ける方針。スリン県の地方紙ネットワークでは、家族が現地行政に対し「無事で戻してほしい」と訴える声が伝えられている。
スリン県カープチュン郡周辺の森林は、ゴム・きのこ・薬用植物などの採集が住民の現金収入源になってきた経緯があり、国境管理が緩やかだった時代の慣行が現在の緊迫した警戒態勢と摩擦を起こしている。在住日本人で同地域に縁のある人は少ないが、タイ・カンボジア国境の現状を象徴する事例として無視できない。
5月7日にアヌティン首相とフン・マネット首相がマルコス比大統領の仲介で三者会談を行い、信頼再構築で合意したばかりだが、現場レベルでは住民の拘束・銃撃事件が続き、首脳合意と現場の温度差が改めて浮き彫りになっている。