タイ空港公社(AOT)が5年間で総額約800億バーツ(約3,920億円)の空港拡張投資計画をまとめた。スワンナプーム空港の東側拡張、ドンムアン空港の第3期開発、プーケット空港の第2期拡張が3本柱で、ピパット・ラッチャキットプラカーン副首相兼運輸大臣が政府として推進する。狙いは「東南アジア航空ハブ」のポジション奪還だ。
予算配分は、スワンナプーム東側拡張(East Expansion)が120億バーツで旅客エリアを8万1000平方メートル拡張し、年間旅客処理能力を1,500万人増やす。ドンムアン第3期は最初の5年で300億バーツ、プーケット第2期は100億バーツ。スワンナプーム東側拡張は承認から4か月以内に入札、2026年後半に着工、2030年完成を目標に置く。
財源について、AOTは自己資金と内部留保で全額をまかなう方針で、計画初の5年間は外部借入を行わない。これは旅客サービス料(PSC)の引き上げで収益基盤を厚くした上での体力勝負の宣言となる。
なぜいま大型投資なのか。タイの航空旅客需要はコロナ後に急回復し、スワンナプームは設計能力(年間4,500万人)を超える運用が常態化、ドンムアンも格安航空のハブとして容量上限に張り付いている。一方でシンガポール・チャンギは第5ターミナル(T5)建設で年間1.4億人体制を狙い、クアラルンプールKLIA・ジャカルタCGK・マニラNAIAも次々に拡張に動いている。「ハブ取りの椅子取りゲーム」でタイが取り残されない投資が必要だった。
日本人旅行者の目線では、スワンナプームでの入国審査の長い列、ドンムアンでの混雑とゲートの狭さ、プーケット到着時の手荷物カウンターの渋滞は誰もが体験している痛点だ。今回の投資が走り切れば、入国動線の短縮と乗継エリアの広さで日本のハブ空港(成田・羽田)と差別化される可能性がある。
懸念は3つ。第一に、スワンナプームの東側拡張だけでは年1,500万人増にとどまり、タイ全体の旅客総量増加に追いつくかは不透明。第二に、ピパット副首相兼運輸大臣が新政権で実権を握る場面が増えてきたものの、政権交代リスクは投資計画の実行を不透明にする。第三に、PSC引き上げによる「タイ発着航空券のコスト増」は日本人観光客の財布を直撃する。
タイ政府は同時に日本人観光客120万人誘致を目標化しており、投資側と集客側を両輪で押し上げる戦略が見える。バンコク到着時のあのゲート前の人波が10年後に解消されているかどうかは、今回の800億バーツが期日通りに動くかにかかっている。