タイの金融市場規制機関SEC(金融取引監督機構)のパッチャラポン・ナリッパタパン委員が5月10日、政府が官報で公布した4000億バーツの借入勅令のうちエネルギー転換枠2000億バーツについて、「タイの電力料金が高いのは資源不足ではなく旧来の構造設計に縛られた結果」と指摘した。「ベトナムでさえASEAN最大の太陽光発電国になれたのに、地理的優位性のあるタイが取り残されている」と痛烈な現状認識を示した形だ。
パッチャラポン委員は、タイのエネルギー価格が地域内で割高な理由を「異なる時代に設計された構造が、まったく変わった世界でいまも稼働している」点に求めた。電気料金の高騰、地政学的リスクで揺れる原油価格、年々減少しているタイ湾の天然ガス依存度といった「警告サイン」が出揃っており、本気の改革時期に来ていると主張した。
具体的な対比対象がベトナムだ。2023年(仏暦2566)、ベトナムは数年前にスタートした太陽光発電投資でASEAN最大の生産国になった。タイには資源も地の利もあるのに、そこに到達できない構造的な問題がある。象徴的事例として、レゴが世界初のカーボンニュートラル工場(100%太陽光)をベトナムに10億ドルを投じて建設した件を引いた。「クリーンエネルギーの調達能力と価格競争力こそが多国籍企業の投資判断の主要因になった」と指摘する。
ただし、ベトナムの急拡大には負の側面もある。補助金主導の急速な拡大は、計画と財政持続性のギャップを露呈させ、ベトナム電力公社(EVN)の財務悪化を招いた。タイがこの教訓を受け、補助金一辺倒ではなく構造改革を組み合わせて段階的に進めるべきだ、という含意が読み取れる。
タイ政府は5月9日、4000億バーツの借入勅令を官報公布した。内訳は救済枠2000億バーツとエネルギー転換枠2000億バーツ。今回のパッチャラポン委員の発言は、後者2000億バーツが「ばらまき」ではなく構造改革のための投資として使われるべきだ、という外部チェック機能としての意見表明にあたる。
タイの電気料金は1kWhあたり4.18バーツ前後(2026年)で、ベトナムの2.0バーツ前後、シンガポールの工業用契約価格に対しても割高な水準。タイ電力公社(EGAT)と地方電力公社(PEA)、首都電力公社(MEA)の三層構造、燃料調整費(Ft)の制度、ガス田・ターミナル・卸売の独占構造など、複合的な要因が「構造問題」として残されている。
懸念は、構造改革に踏み込むほど、既得権を持つ事業者・天然ガス輸入商社・大型発電業者からの政治的反発が強くなる点。アヌティン首相とプーンタム連立政権がエネルギー転換と既存事業者の利害調整をどこまで進められるか、4000億バーツの使途配分が今後数か月で具体化する。
在タイ日本人にとっては、毎月の電気代に直結する話だ。2024年以降、タイ家庭の電気代は1世帯あたり月1万円超のケースが増えており、円安バーツ高で実質負担が膨らんでいる。今回の構造改革が動けば、3-5年後の家庭電気代に影響が出る可能性がある。