タイ東北部ブンカン県ブンクラー郡のプーウア野生生物保護区で5月10日朝、キノコを採取に入っていた39歳の村女性が野生象に襲われて死亡した。同地区では森林産物の採集が住民の現金収入源として古くから続いてきたが、保護区と居住地が隣接する地形で象との遭遇事故が相次いでいる。
地元の救援団体「サワーン・スリヴィライ・タムマサターン」が午前7時50分、ブンクラー郡ナーチャン区のコミュニティリーダーから「野生象が住民を襲って死亡」との通報を受けて出動。保護区と隣接するナーチャン村寄りの森で、ナーチャン在住のルンナパーさん(39、姓非公表)の遺体を確認した。親族の証言では、被害女性は数人の家族と共にキノコを探しに森へ入り、その途中で象と遭遇して襲われたという。
ブンクラー警察署の捜査官とブンクラー病院の当直医師が現場で検視を実施した後、遺体はナーチャン村に戻され、家族が宗教儀式を執り行った。地元当局は森林産物の採集に入る住民に対し、警戒の徹底を改めて呼びかけている。
タイ国内では象との致死事故が短期間に集中している。直近では5月2日にタプラン国立公園で野生象2頭がボランティア警戒員を襲撃し死亡させた事件、5月4日にはチャンタブリ県のドリアン園で野生象が侵入、ミャンマー人女性労働者(40)が踏まれて死亡した事件が報じられたばかり。今回の事件で8日間に3件目となる。
背景には、乾季の長期化と森林の縮小がある。タイ気象局はすでに5-7月のエルニーニョ突入確率61%、少雨と高温の長期化リスクを警告しており、保護区内の水場・餌場が縮小したことで、象が住民の居住地・農地により頻繁に出没するようになっている。プーウア保護区は面積186平方キロメートルの中規模保護区で、ブンカン県中央部の山岳地帯に位置し、約100頭前後の野生象が生息していると推定されている。
日本人にとっては、タイの森林・国立公園は「象に乗るアトラクション」のイメージが強いが、現実の野生象は時速30km以上で突進できる体重3-5トンの大型動物で、不意の遭遇は命に直結する。タイ環境省森林局は森林産物の採取・トレッキング・キャンプを保護区周辺で行う場合、単独行動を避け、象が好む水場・餌場を迂回するよう繰り返し注意喚起している。
ブンカン県は、メコン川沿いラオス国境に面し、ナーカ岩などの観光資源で日本人にも一部知名度があるが、観光化が進む一方で住民の生計と保護区の関係は脆弱なままだ。森林産物の採集が依然として現金収入の重要な柱である以上、象との衝突リスクをゼロにする政策が容易ではない構造が浮き彫りになっている。