タイ東部チャンタブリ県ポンナムロン郡タップサイ町第2集落のドリアン園労働者宿舎で2026年5月4日午後7時頃、野生象が農地に侵入し、豚農場で働いていた40歳のミャンマー人女性労働者マヌさんを踏み殺害する事件が発生した。サワーンガタンユー救助隊・ジュットポンナムロン点が通報を受け、ポンナムロン警察署と地方行政、クロンクルアワーイ・チャルームプラギアット野生動物保護区の職員が共同で現場対応にあたった。
事件現場はドリアン園とロンガン園が交互に広がる農業地帯で、森林との境界部に位置する。被害者マヌさんは隣接の豚農場の労働者として住み込みで働いていた。同区域はもともと野生象が森林からの通行ルートとして使う地帯で、特に4-5月の果物旬の時期には、ドリアンや各種果物の豊作を求めて農地に出没することが頻繁にある。今回も野生象が水場や食料を求めて農地に入った際、マヌさんと遭遇して襲撃された可能性が高い、と当局は分析している。
ジャンタブリ県東部のポンナムロン郡・ソイダオ郡は、タイの主要ドリアン産地の一つでありながら、隣接するカンボジア国境のサンクラブリー国立公園・トラッ県カオキャオ自然保護区と地理的に繋がっており、野生象の生息範囲と農地が重複している地域だ。森林資源の減少と食料不足が深刻化する中、象が森を出て農地・人家エリアに食料を求めて入る「人象衝突」(Human-Elephant Conflict)が繰り返し発生し、過去にも複数の人身被害・物損被害が報告されている。
野生動物保護区職員と地元当局は、周辺のゴム園・果樹園で働く労働者に対して最大限の警戒を呼びかけている。具体的には、夜間の単独行動の回避、宿舎周辺の照明強化、象除け(懸垂式爆竹・電気柵)の活用、緊急時の連絡体制の整備などが推奨される。先日にもタプラン国立公園で野生象2頭がボランティア警戒員を襲撃死亡させる事件が発生したばかりで、5月の野生象襲撃連鎖は地域社会に強い不安を残している。
タイのドリアン産地の労働力構造として、ミャンマー・カンボジア・ラオスからの移民労働者が多数を占める実情がある。今回の被害者もミャンマー国籍の女性で、家族への補償・遺体送還・労働者保護の観点から、外国人労働者を雇用する農園・農場経営者の責任体制が問われる。タイ政府の全国外国人就労取締強化策は雇用主の合法性を確認する方向で進んでいるが、労働環境の安全性まで踏み込んだ規制強化は今後の課題となる。
在タイ日本人にとっての関連は薄いが、チャンタブリ・トラート方面の週末ドライブ・果樹園見学・国立公園トレッキングなどを計画する場合、夜間の単独行動回避と地元のガイド付きツアー利用が安全策となる。タイ東部の自然と農業の境界域は、野生動物との偶発的遭遇リスクが構造的に存在することを認識した上で、観光地選びと行動パターンを設計したい。