タイ王室は4月23日、故シリキット王太后への追善供養「ゴンテック」の儀を王宮のドゥシット・マハー・プラサート玉座の間で執り行った。王太后の御代を表す紙細工のなかに、フランス人オートクチュール創業者ピエール・バルマンの人物像が組み込まれていた点が地元メディアで大きく報じられている。
ゴンテックはタイ華僑社会に伝わる中国仏教式の追善法要で、故人に紙製の家屋・衣服・従者・車などを燃やして「あの世」へ送り届ける儀式である。中国系寺院17寺から120人の僧侶が参集し、午後1時半から深夜11時まで読経が続いた。ワチラロンコーン国王とスティダ王妃も午後6時11分に臨席された。
奉納された紙細工にはチットラダー宮殿の模型と、そこに仕える侍従の紙人形17体が並ぶ。この17体の一人として、王太后の御料車の横に立つバルマンの人物像が加えられた。王太后の側に長く侍したデザイナーとして、紙の侍従の列に位置づけられた格好だ。
ピエール・バルマンは1960年、プーミポン国王とシリキット王太后(当時王妃)による欧米15カ国歴訪に際して王妃の装束デザイナーに選ばれた人物である。タイシルクの質感をパリの仕立て技術で包み込む洋装は外交の場で「シルクのクイーン」の異名を広げ、バルマン本人が1982年に他界するまで22年間、王太后の洋装を手がけ続けた。クイーン・シリキット博物館(バンコク)の常設展にはその衣装が並ぶ。
紙細工には、ヤワラート中華街で中国正月の式典に臨まれた際の紅いご装束、シラク仏大統領の晩餐会で召された絹クレープと網地刺繍のご装束(ヴァレンティノ仕立て)、パリ・オートクチュール視察時のご装束などもしつらえられた。王太后の「シルク外交」が紙の上で再現された形である。
シリキット王太后は2025年10月24日、93歳で崩御された。王室の追善供養は一年続き、本年10月の一周忌に合わせサナームルアンの臨時火葬場で荼毘に付される予定。パリでは仏タイ外交170周年を記念し、5月13日から11月1日まで装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs)で王太后の装束を中心とする「タイ王室のハイファッションと伝統」展が開催される。王太后の洋装がフランスに里帰りする時期に、バンコクの紙細工にもバルマンの姿があったことは、時を越えた献辞となった。