タイ東北部ナコンラチャシマ県コラート市(ムアン区)のポ・クラーン町で、2023〜2026年の3年間にわたって町役場の登記係公務員が外国人27人の虚偽出生登録を行い、1件あたり1〜3万バーツの賄賂を受け取っていた疑惑が発覚した。キッティポン町長が自市の公務員を自ら警察に告発する異例の展開で、詐欺・職務収賄など複数の罪状での立件に向けた捜査が進んでいる。
告発を受けたのは、ポ・クラーン町役場に所属する登記業務担当の女性公務員。本人は4月24日時点で事実関係を認めている。ただし、共犯関係にあるとされる他の関係者については「一切名前を明かさない」姿勢を崩していない。
問題となっている出生登録は全27件。届け出では「父親はタイ人、母親は中国籍・ミャンマー籍(ビルマ)の外国人」として、すべて「カイ・スラナリ軍病院(ナコンラチャシマ県ノンパイロム区)で出生した」と記載されていた。実態としては、実際の出産証明がない虚偽の届け出と見られる。
業務手順の面で特徴的なのは、指紋認証システム(Dip Chip)の操作方法。女性公務員は、自分のIDカードではなく同僚職員のカードを借用して登録処理を通していた。その結果、システム上の記録は別の同僚の操作履歴として残り、不正の追跡を難しくしていたとされる。賄賂の水準は1件1〜3万バーツで、27件分で少なく見積もっても30万バーツ、高く見ても80万バーツ規模となる。
ポ・クラーン町長のキッティポン・ポンスラウェート氏は、内務省の登記行政局および警察の中央捜査司令部(Central Investigation Bureau)の合同チームが町役場を訪れて情報照合を行ったのを受け、4月24日にナコンラチャシマ警察署の捜査員に対して正式な告発を行った。町長自身が行政機関の長として職員の不正を告発する動きは、タイの地方行政でも珍しいケースとされる。
27人の「子ども」が実際にタイ国内に存在するかは調査中だが、仮に身分証明書(タイID)が発行済みであれば、実体のない名義がタイ国籍保有者として登録されたことになる。中国籍の不法滞在者(タイ国内では通称「中国グレー」)がタイ国籍を詐称する手口の一種として、捜査当局は警戒を強めている。
タイでは近年、中国人による不法滞在・不法就労・偽造書類を使ったビジネス経営が社会問題化している。外国人事業法・ノミニー法違反の大規模摘発も相次ぎ、コラート・バンコク・プーケット・クラビなど主要都市で警察と入管の合同捜査が続いている。今回の事案も、その延長線上にある「行政側の内部者が協力した手口」として全国的な波紋を広げつつある。
在タイ日本人コミュニティにとっては、タイ国籍取得や出生届登録の手続きが年々厳格化する背景として、こうした組織的な不正案件の存在がある。正規手続きでの各種届出はこれまで以上にチェックが厳しくなる可能性があり、関係書類の準備・証明手段の整備は今のうちから意識しておいたほうが無難だ。