タイ東北部カラシン県ヤーンタラート郡ドーンソンブーン地区のバンパーデン集落では、稲刈り前の水田で農家が背を丸め、稲の一本一本を見極めながら手で引き抜いていく作業が続いている。抜かれているのは「カオディート(ข้าวดีด)」と呼ばれる雑種稲で、農家の間では「雑草米」とも呼ばれ、売値を大きく下げる厄介者だ。
カオディートは野生稲と栽培品種の自然交雑で発生する雑種で、穀粒が混ざると等級が下がり、一気に出荷価格に響く。稲作農家にとっては「放っておけば田んぼがすべて雑種に乗っ取られる」恐怖の存在であり、収穫機で刈り取る前に人の目と手で選り分ける以外に有効な手段がない。
記者が4月中旬に現地を訪れたところ、ラムパオ貯水池の灌漑区では上流の圃場が先に収穫期を迎えていた。水が先に届く上流圃場では収穫機を入れた機械刈りが中心だが、中流・下流では稲穂が垂れ始めた「プラップルン期」と呼ばれる熟度に入り、これが一番いい収穫のタイミングとされる。
ところが、農家の懐に入ってくる価格はこのところ厳しい。籾米の取引は1トン7,000バーツ、つまり1キロ7バーツの水準で止まっており、先週からさらに0.5バーツ下げた。モチ米や特定の高級品種を除く普通米の農家にとって、この価格は生産コストを賄うのが精一杯の水準である。
追い打ちをかけるのが収穫機のレンタル料だ。1ライあたり700バーツで、前期から100バーツ上がった。ディーゼル価格の上昇が機械オペレーターに転嫁され、農家から見れば「作る米の値段は下がるのに、刈る費用は上がる」構図になっている。
バンパーデン集落の農家は、そんな状況にあってカオディートを手で抜くという地道な投資を選んだ。22ライを丸ごと手作業で回ることで、等級の高い米として出荷でき、取引価格の下落分をわずかでも取り戻す狙いだ。一軒の農家の工夫だが、「やれることをやる」姿勢は、低迷する米相場の前で多くの農家が参考にすべき現場知として広まりつつある。
タイは世界有数の米輸出国であり、日本のスーパーでも「タイ米」「ジャスミンライス」は定着した食材だ。その裏側では、1キロ7バーツまで買いたたかれる稲作農家の現実と、雑種化する品種の問題がしずかに進行している。タイ米の棚を見るとき、その価格が誰の汗の対価なのかを想像する手がかりとして、こうしたカラシンの田んぼの光景は記憶しておきたい。