警察庁燃料犯罪撲滅センターのタッチャイ・ピタニラブット副長官は4月21日未明、タイ湾中央で2隻の石油輸送船を検査するよう水上警察隊に指示し、実際に同日午前4時に立ち入り検査が行われた。2隻とも予定より異常に遅く航行しており、油価の上昇を待って利益を出す「滞留詐欺」の疑いが強まっている。
両船はラヨーン県の精油所を出発し、1隻はバンコク、もう1隻はスラートタニー県の石油倉庫に向かう予定だった。本来の輸送スケジュールから見ると到着が大きく遅れており、海上でわざと速度を落としていた可能性が浮かび上がっている。船舶の追跡システム(AIS)と輸送書類、周辺の目撃証言を突き合わせた結果、3月24日から26日の航行データにも輸送時間の不一致が見つかったという。
警察が立ち入り検査に踏み切った背景には、過去半年にわたる業界の構造的な問題がある。先に報じたスラートタニー備蓄倉庫で2月210万L→3月40万Lへ販売が80%激減した件や、トラート沖で密輸船が鶏肉の下に積み荷を隠し沈没した件、メーソート国境でディーゼル16,000Lを22輪トラックでミャンマー転売しようとした件など、石油・燃料の流通経路では摘発が相次いでいる。
滞留詐欺の仕組みは単純だ。輸送途中で船舶が海上に待機し、市場価格が上がったタイミングで荷下ろし・転売する。今回の事件では、滞留中に見込まれた利益は約4,800万バーツ(約2億2千万円)と試算されている。価格変動で稼ぐための「移動する倉庫」として船を使う構造で、真正の輸送業とは性質が異なる経済犯罪となる。
処罰の見通しは重い。違反が確定した場合、関係者には懲役7年と罰金14万バーツの刑が科される可能性がある。証拠収集は輸送書類、船舶追跡システム、船員の証言、精油所と倉庫双方の入出荷記録を軸に進められ、企業の関与や経営者の責任追及まで視野に入っている。
タイの燃料価格は石油燃料基金からの補助金で調整されているが、流通の現場でこうした時間差詐欺が横行すれば、基金の赤字を拡大させ、結果として国民負担にしわ寄せが及ぶ。警察は今後も水上警察・税関・DSI(特別捜査局)の連携を強化する方針で、国内の燃料流通にようやく監視の目が届き始めた段階と言える。