アヌティン・チャンビーラクン首相は、全国のガソリンスタンドで22時から翌朝5時までを閉鎖とする「夜間営業規制」を検討していることが明らかになった。4月に迫るイラン・米国の停戦期限を睨み、有事の際の燃料節約策として浮上している。ただし政府内では「消費者信頼を一段と損ねかねない」との懸念も強く、実施は慎重に見極める構えである。
タイは原油輸入の約51%を中東に依存しており、ホルムズ海峡周辺での緊張が再燃すれば供給網の寸断は避けられない。先にシーハサック外相は「タイは戦争に反対するが、大国と一方的に肩を並べるべきではない」と表明しており、中立路線を維持しつつ国内供給を確保する構えを示している。
夜間営業規制は家計に即効性を持つ一方、副作用も大きい。3月のタイ消費者信頼感指数はすでに急落しており、さらに「ガソリンが夜に買えない」情報が広まれば、一般消費者の買い物や外食にまで心理的な冷え込みが及ぶおそれがある。Atlas EnergyのスワッチャイCEOも、ドライバーが早めに給油する行動変化を指摘し、結局は消費・物流の混乱につながると見ている。
中東情勢の影響は、タイ国内でLPG需要の急増として顕在化している。車両のLPG改造は3月に月400台から800台へと倍増した。改造費用は2〜3万バーツで、40万バーツ以上のEVに比べて中低所得ドライバーにも手が届きやすい。トゥクトゥクや中古ピックアップの乗り換えが進んでおり、ガソリン・ディーゼルの需要がLPGへスライドしつつある。
先に報じたディーゼル1.20バーツ値下げで41.70バーツへという4月21日朝からの施策とあわせて、政府は「値下げで家計を守りつつ、有事には供給を絞る」という二正面作戦を組んでいる。ただしディーゼルは既に歴史的高値圏にあり、物価高と経済減速が同時進行するスタグフレーションのリスクが高まっている。
アナリストの間では、今後仮に中東で戦闘再開となった場合、インフラ損傷の修復に2〜3年かかるとの見方がある。供給不足が長期化すれば、タイのドライバーや物流企業は1バーツ単位の値動きと規制の組み合わせに振り回され続ける。夜間営業規制は実施されずに終わる可能性もあるが、「政府が本気で考えている」という事実自体が、家計の防衛行動を促す十分なインパクトを持つ。