タイ商業開発局(DBD、商業省傘下)が、弁護士・会計士・監査人などが担う「法人登記の署名認証」について厳重な警告を発した。虚偽の署名認証や認証用アカウントの漏洩が、ノミニー悪用のルートとして使われているためである。違反者には禁錮と資格剥奪のペナルティが予定されている。
4月19日、商業開発局のプーンポン・ナイナパコン局長が発表した。同局は近年、法人登記をデジタル化した「DBD Biz Regist」システムを導入し、手続きの効率化を進めてきた。ただそのシステムを悪用するノミニー業者とグレーマネー勢力が増えており、見逃せない段階に入ったとの判断がある。
問題の核心は「署名認証者」の振る舞いだ。法人登記は本来、署名する本人が署名認証者の目の前でサインを書くことが要件である。ところが一部の弁護士・会計士らが、本人不在のまま書類にハンコを押したり、自分のログインIDやパスワードを業者に貸し出すケースが確認された。
この抜け道で作られる法人は、ほぼ間違いなく「ノミニー会社」である。タイ人名義だが実質は外国人が支配する企業、あるいは「口座貸し出し用の実体のない法人」が量産されている。フィッシング詐欺やオンライン賭博、マネーロンダリングの受け皿として機能する。
ペナルティは重い。署名認証者として虚偽の行為を行った場合、タイ刑法の「公文書偽造」「偽造書類の行使」が適用される可能性があり、禁錮最大10年の刑が想定される。加えて同局は弁護士・会計士の登録資格を剥奪する方向で動く。
在タイ日本人の起業家や駐在員にとってもこの通知は他人事ではない。タイで会社を設立する際は弁護士や会計士に署名認証を依頼するのが通例だが、相手が怪しい業者だった場合、知らぬ間に自社の登記情報が悪用される危険がある。認証を依頼する際は、必ず本人が署名認証者の面前でサインをし、システムのログイン情報を第三者に渡さない原則を徹底したい。
タイの会社設立コストは周辺国より安く、制度もデジタル化が進んでいる。その利便性が犯罪者の隠れ蓑になる側面を放置すれば、真っ当な外国人起業家にまで規制強化のしわ寄せが及ぶ。商業開発局の今回の警告は、国際的な信頼を保つための引き締めの一歩である。