タイ深南部ヤラー県ヤハー郡の路上で、独特の香ばしさを放つ「ロティ・バカー」が通行人の足を止めている。一般的なロティが油で揚げ焼きにされるのとは異なり、ロティ・バカーは一切の油を使わない焼成法が最大の特徴である。
オーナーのパリラー・ターク氏、通称「カヤー」が営む「カヤー・ロティ・バカー」は、バーンニアン〜バーゴーヨーシネーの街道沿いに店を構えて5年になる。古くから伝わる伝統菓子づくりの技術を応用し、昔ながらのロティ・バカーとして商品化したのが始まりだった。
調理工程はすべて手作業である。小麦粉にバター、牛乳、卵、イーストを加えてなめらかになるまで練り上げ、生地を十分に発酵させる。成形した生地はバナナの葉の上に置かれ、ココナッツの殻を燃料とする専用の焼き窯に入れられる。上下から均一に熱が加わることで、バナナの葉とココナッツ殻の香りが生地に移り、独特の風味が生まれる仕組みである。
焼き時間はわずか5分ほど。できあがったロティ・バカーは外側が軽く焦げ目をまとい、中はふんわりとした食感を保つ。甘味・塩味・コクが絶妙に調和し、揚げロティにはない素朴な味わいが楽しめる。
ヤラー県はタイのマレー系ムスリム文化圏に位置し、ロティ文化が深く根付いた地域である。油を使わず窯で焼くという古来の製法は、近年の健康志向の高まりとも相まって注目を集めている。ヤハー方面を訪れる機会があれば、街道沿いに漂う香りを頼りに立ち寄ってみてはいかがだろうか。