バンコクのヤワラート(中華街)と並行するソンワート通り。観光客が素通りしがちなこの旧市街の歩道脇に、知る人ぞ知る一杯が待っている。店名は「ルークチンムーニンジャ(忍者豚団子麺)」。看板も控えめで一見すると見落としそうだが、常連客が途切れることはない。
創業から30〜40年。父の代から受け継いだ味を守るのは、70歳前後の「アジェック」(おじさん)だ。仕込みから調理まですべて一人でこなし、客を迎える笑顔も変わらない。メニューはたった一品、豚団子入りの細麺のみ。選択肢の少なさがそのまま自信の表れである。
こだわりは各工程に宿る。唐辛子酢は2日間かけて自家漬けし、ニンニクチップは毎朝生から剥いて揚げたてを使う。油が回った既製品とは香りがまるで違う。スープは豚のカタン骨を1日10キログラム使い、2時間以上煮込んで仕上げる。化学調味料に頼らない自然な甘みとコクが身上である。
主役の豚団子も自家製で、噛むと跳ね返すような弾力がある。店名に冠した「ニンジャ」の名にふさわしい歯応えだ。汁麺は澄んだスープに細麺が泳ぎ、すっきりとした味わい。一方の汁なし麺は濃厚なタレを絡めた別の顔を見せる。どちらを頼んでも外れはない。
ソンワート通りはヤワラートほど観光地化されておらず、昔ながらの商店や食堂が残るエリアである。再開発の波が押し寄せるバンコク旧市街で、親子二代の味が静かに生き続けている。次にこの界隈を歩く機会があれば、歩道の小さな屋台を見逃さないでほしい。