チュラーロンコーン大学経済学部のナット・タンパニット准教授は2026年に開かれたPIER(政策研究院)のシンポジウムで、世界的な産業規制の増加がタイの輸出競争力を脅かしていると警告した。非関税型の「産業政策」が貿易の主戦場になりつつある中、タイは受け身の対応を続けていると指摘した。
ナット准教授が分析したデータによると、世界の産業規制(補助金、国内調達義務、政府調達規制など)は2019年以前の年平均約1,100件から、2022〜2024年には約1,900件/年に急増している。米国、中国、EUが全体の約60%を占めており、これらの巨大市場を抱える3極が産業政策競争を主導している。
タイの輸出総額は約2,300億ドル(タイGDPの約67.5%相当)がこうした規制の影響を直接受ける可能性があるとされる。特に問題となるのが、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)、米国のIRA(インフレ削減法)に基づく国内製造優遇策、各国のサプライチェーン透明性要求(ESGデューデリジェンス)だ。タイの主要輸出品である自動車部品、電子機器、農産物加工品のいずれもが影響を受ける。
ナット准教授は「タイが直面しているのは関税戦争ではなく、産業政策戦争だ」と指摘した。従来の貿易交渉では対処しにくい新たな障壁が生まれており、ルール形成の場(WTO、FTA交渉)でより積極的に発言していく戦略が必要だという。
タイは2023年にEUとのFTA交渉を再開し、GCCとの協議も進んでいるが、成果が出るには時間がかかる。短期的には日本、韓国、台湾など同様に産業政策の影響を受ける国々との連携や、規制対応のための企業支援制度の整備が急務だと提言している。
タイの製造業は長年、コスト競争力を武器に外資誘致を進めてきたが、環境規制や人権デューデリジェンスの要求が増す中、新たなコンプライアンス投資が求められる局面に入っている。2,300億ドルの輸出規模を守るためには、政策対応の巧拙が問われる。日本でもタイと同様の問題意識が高まっており、両国の政策連携が今後の焦点の一つになるとみられる。
タイ経済は東南アジアの中でGDP規模でインドネシアに次ぐ第2位に位置する。2025年の実質成長率は約3〜4%で推移しており、観光業と電子機器輸出が主要な牽引力だ。ただし中東情勢に起因するエネルギー価格の高騰と、米中貿易摩擦の影響による輸出減速が重なり、2026年の見通しには不確実性が高まっている。タイ政府は経済対策パッケージの検討を急いでおり、燃料補助・物価対策・中小企業支援の3本柱での対応を進めている。
タイのGDPに占める消費の割合は約55%で、エネルギー価格の上昇は個人消費の冷え込みを通じて経済全体に波及する。特に低所得層の実質購買力低下は深刻で、政府の生活支援策の拡充が求められている。
タイバーツは2026年に入り中東情勢の影響で対ドルで軟調に推移し、輸入物価の上昇を通じてインフレ圧力が高まった。タイ中央銀行は金利政策と為替介入を慎重にバランスさせながら対応している。
在タイ日本人や日本からの訪問者にとっても、今回のような出来事はタイの社会・文化の一側面を理解するうえで参考になる。タイと日本の間には歴史的・経済的な深い結びつきがあり、在タイ日系企業のビジネス活動や日本人観光客への影響も無視できない。今後も継続的な情報収集と現地状況の把握が重要だ。
タイは人口約7,000万人を擁する大国で、バンコクを中心に経済・文化・政治が集中している。2026年現在、首相アヌティン・チャーンウィーラクーン率いる連立政権は、中東情勢の影響で高まるエネルギーコストと生活費上昇への対応を最優先課題としている。在タイ日本人・日本企業にとっても、タイの政策動向や社会情勢を把握し、適切に対応することが求められる局面だ。