タイ西部の世界自然遺産トゥンヤイ・ナレースワン野生生物保護区で、オフロード車の集団が渓流の中を走行したり水中に車両を停めたりする様子が撮影され、SNSで批判が殺到している。集団は山間部の学校へ学用品を届ける慈善活動だと説明したが、手つかずの自然が残る世界遺産の中を四輪駆動車で走り回る行為に、環境保護を求める声が広がっている。
世界遺産の保護区で何が起きたのか
問題の画像は6月4日、フェイスブックページ「Aeromechx」が公開した。トゥンヤイ・ナレースワン野生生物保護区は北のターク県から南のカンチャナブリ県にまたがる広大な森林地帯で、公開された画像には車両が渓流を渡ったり川の中に停車したり、保護区内でドローンを飛ばしたりする様子が写っていた。投稿では、たとえ慈善目的であっても、こうした行為が正当化されるのかと疑問が投げかけられた。
集団は、山奥のバン・コ・サドゥン校に学用品を届ける途中だったと主張している。ただ、原生林に与える影響を懸念する声は強く、ネット上では当局に調査と対応を求める投稿が相次いだ。本記事の執筆時点で、保護区を管理する当局の公式な見解は確認されていない。
トゥンヤイ・ナレースワンとはどんな場所か
トゥンヤイ・ナレースワン野生生物保護区は、隣接するフアイ・カ・ケン野生生物保護区とともに1991年にユネスコの世界自然遺産に登録された。両保護区を合わせた面積は約62万ヘクタールに及び、東南アジア大陸部で最大級の保護区とされる。1972年に保護区へ指定され、人の手がほとんど入らない原生林が守られてきた。
ミャンマー国境沿いに広がるこの森には、ゾウやトラをはじめとする多様な野生動物が生息する。この地域に分布する大型哺乳類の約8割が確認されているとされ、生物多様性の観点から「人類の遺産」と評価されてきた。タイでも有数のアクセスが難しく、攪乱の少ない自然が残る場所であるだけに、車両の乗り入れに対する反発は大きい。
保護区への立ち入りは法律で厳しく制限
タイでは2019年に施行された野生生物保全保護法により、野生生物保護区での活動が厳しく制限されている。原則として、研究や保全、許可を得た学術調査、ドキュメンタリー撮影などを除き、保護区内での活動には管理当局の許可が必要となる。
法律に違反した場合、最大で7年の禁錮または10万バーツ(約49万円)以下の罰金、もしくはその両方が科される可能性がある。狩猟など、より重い違反にはさらに厳しい刑罰が定められている。世界遺産の自然を守るためのルールが、慈善という名目の前でどこまで通用するのか。今回の騒動は、自然の保護と利用の境界をあらためて問いかけている。