タイ・ノンタブリー県バンブアトーン郡(บางบัวทอง / Bang Bua Thong)の住宅地で「鳩おばさん(ป้านกพิราบ / Bird Auntie)」と村の住民から愛称される76歳のプラパイシー婆さん(นางประไพศรี)が、毎日鳩や野良猫に大量の餌やりを繰り返して住民を悩ませている問題が、5月26日に再び表面化した。住民が中央行政裁判所(ศาลปกครองกลาง)に訴え、村内餌やり禁止命令を勝ち取ったにもかかわらず、プラパイシー婆さんは無視して餌やりを継続。さらに最近では隣人ジャールパー氏(60歳)の家の門のフェンスを乗り越えて侵入し、水ポンプと木製フェンスを破壊する行動に出た。警察介入で1万990バーツ(約5万円)の損害賠償で和解したが、住民は「翌日も同じことの繰り返し」と疲弊しきっている。タイの郊外住宅地で「動物への善意」と「近隣秩序」がぶつかる典型的な隣人トラブル事案として、SNSでも話題が広がっている。
バンブアトーンの「鳩おばさん」プラパイシー婆さん76歳
問題の主は、プラパイシー婆さん(นางประไพศรี、76歳)。ノンタブリー県バンブアトーン郡の住宅地に住み、村の住民から「鳩おばさん(ป้านกพิราบ)」の愛称で呼ばれている。「愛称」とは言っても、住民の間ではポジティブな意味合いではなく、長年にわたる餌やり行動への苦情を込めた呼び方となっている。
問題行動は具体的で、毎日のように鳩・野良猫を呼び寄せて大量の餌を撒き、家の周辺・道路・他人の敷地にまで広がる「動物の集まり」を作り出してきた。鳩のフン、野良猫の鳴き声、衛生問題、近隣の家庭菜園被害などが、住民の生活を直接圧迫してきた。
中央行政裁判所が「村内餌やり禁止命令」を発令
住民は当初、本人への説得・自治体への陳情・コンドミニアム管理組合への要請など、様々な方法で問題解決を試みた。それでも改善しなかったため、最終的に住民は中央行政裁判所(ศาลปกครองกลาง)に集団訴訟を提起。
裁判所は住民の訴えを認め、プラパイシー婆さんに「村内での動物餌やり禁止命令」を発令した。これはタイの司法システムが、個人の動物愛護行為と近隣の住環境のバランスをどう取るかを示す判例として、地元では大きな意味を持っていた。
しかしプラパイシー婆さんは、裁判所の命令を実質的に無視。引き続き毎日のように餌やりを続けている。
最新の事件、隣人フェンス乗り越え+物破壊
問題がさらに深刻化したのは、最近の5月。プラパイシー婆さんが隣人ジャールパー氏(น.ส.จารุภา、60歳)の家に対して、より直接的な攻撃行動を取り始めた。具体的には、ジャールパー氏宅の門のフェンスを乗り越えて敷地内に侵入し、水ポンプと木製のフェンスを破壊するという行動だった。
ジャールパー氏は、自宅の防犯カメラ動画でプラパイシー婆さんが門のフェンスを乗り越える瞬間を捉えた。この決定的証拠を持って、バンブアトーン警察(สภ.บางบัวทอง)に被害届を提出した。
警察介入、損害賠償1万990バーツで和解
通報を受けたバンブアトーン警察は、プラパイシー婆さんを警察署に呼び出して仲介手続きを実施。プラパイシー婆さんは、ジャールパー氏宅の水ポンプと木製フェンスの修理費用として、1万990バーツ(約5万円)の損害賠償を支払うことに同意した。和解は警察立会いのもとで成立した。
しかし、住民の安心は長続きしなかった。記者が5月26日午後6時30分頃に現地を再訪したところ、村の住民らがジャールパー氏宅のフェンス被害について不満を口にしながら集まっていた。プラパイシー婆さんは警察署から戻った後も、依然として毎日のように動物の餌やりを継続している状況だった。
住民の証言、毎日恐怖の生活
ジャールパー氏は「監視カメラを取り付けてから、自分の家にも何度も侵入されている。フェンスを乗り越えて入ってくるなんて、本当に怖い」と語る。他の住民も「裁判所命令も、警察介入も、結局効果がない。この方は私たちの常識が通じない」と疲弊した様子を見せる。
タイの地方住宅地では、住民同士の人間関係が密接で、こうした個人の問題行動が地域全体の生活の質を直撃する構造がある。特に高齢者の問題行動には、家族介入や認知症の可能性、福祉サービス連携など、複雑な対応が必要となるが、現実には警察・裁判所頼みの対応にならざるを得ない場面が多い。
タイの動物愛護法と近隣トラブル
タイには動物愛護法があり、野良動物への餌やり自体は違法ではない。むしろ仏教文化では「動物への慈悲」が美徳とされる。しかし、近隣住民の生活権・健康権との衝突が起きた場合、地方行政や裁判所が個別判断する。
今回のように、裁判所が「特定区域での餌やり禁止」を命じる事例は、近年増えている。動物の福祉と人間の住環境のバランスは、タイ社会の老年化と都市化の進行とともに、ますます重要な論点となっている。
「鳩おばさん」のような事案、タイで定期的に話題
タイで定期的に話題となる類似の事案として、過去には以下のようなケースがある。「猫おばさん」「犬おじさん」と呼ばれる高齢者が住宅地で大量の野良動物に餌やりを続けて住民とトラブルになる、コンドミニアムの一住戸で20匹以上の猫を飼育して悪臭問題に、寺院の境内で野良犬の大量繁殖が周辺住民の生活を圧迫など、いずれも「動物への善意」が「公共の生活」と衝突する構造を共有する。
タイの住宅地・コンドミニアム管理組合は、こうした問題への予防策として、入居前のルール明示、定期的な地域住民会議、自治体福祉部門との連携などを進めている。
高齢者の問題行動、福祉介入の必要性
プラパイシー婆さん76歳は、年齢的にも問題行動の背景に認知症や精神的・社会的な孤立がある可能性がある。タイの高齢者福祉は、地方部での浸透が限定的で、こうした「動物愛護を介した社会的接点」が、孤立した高齢者にとって唯一の生きがいになっているケースもある。
法的処罰や警察介入だけでは根本解決にならない事案で、自治体福祉部門・医療機関・地域コミュニティの連携が必要。タイ社会が、こうした複雑な高齢者問題にどう取り組むかが問われている。
SNSで広がる議論、賛否分かれる
プラパイシー婆さんの事件は、タイ国内SNSで広く議論されている。コメントは賛否に分かれる。「動物への愛は素晴らしいが、近隣の迷惑になってはいけない」「裁判所命令を無視するのは法治国家として許せない」「高齢者の福祉介入が必要なケース。家族はどこに?」「住民にも我慢の限界がある。フェンス乗り越えはアウト」「タイ社会の優しさと厳格さのバランスを問う事案」など、多様な視点が交錯している。
タイの地方住宅地で繰り返される「動物の善意と近隣秩序の衝突」は、今後も社会的議論を呼び続けることになる。




