タイ政府の経済対策「タイ助けタイプラス(ไทยช่วยไทยพลัส / Thai Help Thai Plus)」の登録初日となった2026年5月25日、東北部ナコンラチャシマ県ダーンクントート郡(ต.ด่านขุนทด อ.ด่านขุนทด จ.นครราชสีมา)のクルンタイ銀行支店で、登録者から「PaoTangアプリの顔スキャン本人確認が通らない」「電話番号を変更した人はさらに困難」という声が多く聞かれた。特に高齢者層が顔スキャン操作に不慣れで、何度試行しても本人確認をパスできず銀行支店まで足を運ぶ事態が広がっている。68歳のナーさん(ダーンクントート住民)は「前回のコンラクルン(現金給付)登録に間に合わなかったので今回は急いで来た」、54歳のソムジットさん(ピマイ住民)は「夫が電話番号を変更したから登録できない」と困惑を語っている。タイ政府のデジタル給付金プログラムの「最後の1マイル」、特に高齢者・デジタル弱者層への支援体制の整備が課題となっている。
登録初日、ダーンクントート支店が朝から賑わい
事案の場面は、ナコンラチャシマ県ダーンクントート郡(จ.นครราชสีมา = コラート、東北部最大の県)のクルンタイ銀行ダーンクントート支店。タイ助けタイプラスは2026年5月25日に登録が開始され、初日は朝から夕方まで支店窓口に住民が長蛇の列を作った。バンコク中心部だけでなく、地方の支店でも同様の混雑が報告されており、タイ全国で初日30分で1,000万人登録という爆発的反応を見せた。
「顔スキャン本人確認」が共通の難関
登録者の多くに共通する問題が、PaoTangアプリ(เป๋าตัง / 「サイフ」を意味するタイの政府公式金融アプリ)での本人確認プロセス。本人確認は基本的にスマホの自撮りカメラで「顔スキャン」を行い、AIシステムが本人と照合する仕組み。しかし、以下の理由で多くの登録者が苦戦している。
- 高齢者がスマホの操作に慣れていない
- 顔スキャンの照明・角度・距離の指示が分かりにくい
- スマホのカメラ性能の差で認識率が異なる
- 何度試しても通らない(顔の変化、写真と顔の一致性チェックなど)
結果として、家族・親族の助けを借りても解決せず、最終的にクルンタイ銀行支店に足を運んで担当者の補助を受ける必要が生じる構造。
68歳ナーさん「コンラクルンに間に合わなかったから今回急いで」
68歳のナーさん(ダーンクントート郡住民)は記者の取材に対し、「今日銀行に来たのは、本人確認を再度やる必要があったから。顔スキャンが何度やっても通らないんです」「前回のコンラクルン(คนละครึ่ง / Half-Half、政府給付プログラム)の登録に間に合わなかったので、今回は権利を失わないように急いで来た」と話した。
ナーさんは、前回プログラムでの登録漏れが経済的損失となった経験から、今回のタイ助けタイプラスへの登録に対して強い意欲を持っている。一方、デジタル本人確認の壁が高く、銀行窓口での補助なしでは登録できない状況。
54歳ソムジットさん「夫が電話番号変更でつまづいた」
54歳のソムジットさん(ピマイ郡住民)は別の問題を語った。「事前にPaoTangアプリで登録・本人確認を完了している人は、PaoTangアプリ内ですぐに権利を確認できる」「しかし、夫が電話番号を新しく変更したから、ここでつまづいた」「銀行に来て、担当者に助けてもらわないと、このプログラムに参加できない」。
PaoTangアプリは、登録時の電話番号に紐付くSMS認証で本人確認を行うため、電話番号の変更があった場合、再度の本人確認プロセスが必要となる。電話番号変更は、タイ国民にとって日常的な行為(プリペイドキャリア間の乗り換え、ナンバーポータビリティ、SIMの紛失・盗難等)で、これがタイ助けタイプラス登録のハードルになっている。
デジタル給付金、「最後の1マイル」の課題
タイ政府の経済対策プログラムは、コンラクルン(2020-2024)、デジタルウォレット(2024-2025、ナビン政権)、タイ助けタイプラス(2026-)と、世代を重ねて進化してきた。共通する技術基盤はクルンタイ銀行のPaoTangアプリで、政府が国民にデジタル給付金を配布する標準プラットフォームとなっている。
しかし、毎回課題として浮上するのが「最後の1マイル(last mile)」、つまり高齢者・デジタル弱者・地方在住者への到達。タイ国民の約20%が60歳以上(高齢化社会への移行中)で、このうちスマホでのデジタル本人確認に苦戦する層は数百万人規模に達する可能性がある。
クルンタイ銀行、5/26-29に現地サポート窓口設置
タイ政府は、こうしたデジタル本人確認の課題に対応するため、クルンタイ銀行が5月26日から29日まで「タイ助けタイプラス現地サポート窓口」を各地で設置する計画を発表している。これは銀行支店外での出張サービスで、高齢者・遠隔地居住者・店舗事業者などが、銀行支店まで遠出せずに本人確認・店舗登録を行える仕組み。
「日本人読者から見たタイ給付金」の驚き
タイ政府の給付金プログラムは、日本の給付金制度と比較すると以下の点で異なる構造を持つ。
- 全国民を対象とするユニバーサルな制度(所得制限なし、または緩やか)
- スマホアプリでの即時受け取り(数日以内)
- 対象店舗での「半額補助」型(消費刺激+店舗支援を同時実現)
- 登録初日に数千万人が登録するスピード感
- 高齢者がアプリ操作のために銀行支店に並ぶ風景
日本の特別定額給付金(2020年コロナ対策)が紙ベースの申請+口座振込で約2-3ヶ月かかったのと比べ、タイのデジタル給付金は「申請+受給」のスピードが圧倒的に早い構造となっている。
タイ国民ID保有が登録要件、観光地の街全体活性化は間接効果
タイ助けタイプラスは、タイ国民IDカード保有者が対象(永住権・タイ国籍取得者・タイ人配偶者の子等)で、就労ビザ・退職ビザ・観光ビザの在留邦人は登録できない。一方、対象店舗(ローカル食堂、市場、雑貨店、サービス業)が増えれば、タイ人客の消費活発化で街全体の活気が高まり、間接的にタイ国内消費の恩恵を受ける可能性がある。

