タイ厚生省・伝統医学代替医療局のテワン副局長(นพ.เทวัญ ธานีรัตน์)が5月19日、市民団体ネットワークから大麻法案早期審議の請願書を受け取った場で、「7月前に大麻・ヘンプ法案(พ.ร.บ.กัญชา กัญชง)を閣議に提出する」と明言した。同時に「娯楽利用は絶対禁止の方針で進める」「年内には無許可大麻店は全て閉鎖になる見込み」と踏み込んだ発言をしている。2022年にアジアで初めて大麻合法化に踏み切ったタイだが、再規制への舵切りはこれで決定的になった。
請願したのは、薬物乱用学術センター財団、リスク要因低減コミュニティネットワーク、健康促進運動、児童青少年家族財団、若年層健康促進ネットワーク、若年心臓病ネットワーク等の連合体。パッタナー厚生大臣宛ての書面を、テワン副局長経由で提出した。
5月19日に確定したスケジュール
タイ国内の大麻規制は、2022年6月の合法化以降、迷走を続けてきた。今回の5月19日テワン副局長発言で、次の段取りが明確になった。
第一段階として、6月中旬までに法案最終案を確定し、6月下旬〜7月初頭の閣議に提出。続いて議会(下院)審議に入り、早ければ9月、遅くとも年内に成立を目指す。並行して、現行の省令ベースの規制(無許可店閉鎖)も継続するため、年内には全国18,433施設のうち、ライセンス更新を申請しなかった約84.5%(つまり1万5千店舗以上)が事実上閉鎖になる見込み。
法案の中身、何が変わるか
施行されると、(タイ国内での)大麻の合法的な取扱いは次の4カテゴリに完全限定される。
- 医療機関(病院・クリニック)
- 薬局
- ハーブ製品販売施設
- 伝統医の業務場所
これに該当しない一般の大麻ディスペンサリー、観光地のカフェ、街角の大麻売店は、許認可なしには営業できなくなる。THC含有量0.2%超のエキスは現行通り麻薬指定が継続、花蕾(สดอกกัญชา)は「規制ハーブ」扱いで、医療目的の処方なしには取得・所持が困難になる。
設備面でも、(設置義務として)臭気・煙対策、適切な保管設備、床への直接配置禁止、研修修了スタッフの常時配置、が要求される。観光客向けに「気軽に立ち寄れる」スタイルの店舗は、設備要件のハードルを越えられないケースが大半だ。
2022年合法化からの軌跡
タイの大麻政策はこの4年間で、合法化→過熱→再規制の急カーブを描いてきた。
2022年6月: アヌティン氏(当時タイ国民党党首・厚生大臣)主導でアジア初の合法化。THC 0.2%以下の花蕾と関連製品を麻薬指定から除外。
2022年下半期〜2023年: バンコク・パタヤ・チェンマイ・プーケットに大麻ディスペンサリーが急増、年間8,000店以上が開業。観光客向けに「Cannabis Cafe」「Weed Shop」が観光地の目抜き通りに並ぶ風景が定着した。
2024年: 健康被害の報告増加、未成年・妊婦への悪影響、観光イメージへの懸念が表面化。
2025年10月: アヌティン首相政権(再就任後)が大麻法改正を閣議承認、医療用途限定への巻き戻し方針を打ち出す。
2026年1月: 厚生省が新規制を発表、大麻を「規制ハーブ」扱いに格上げ。
2026年5月19日: 7月閣議入り・娯楽利用絶対禁止の方針が確定。
タイの政治史で見ても、ひとつの嗜好品政策がこれほど短期間で180度反転した例は珍しい。アヌティン氏本人が「合法化の主導者」から「再規制の主導者」に転じている点も含めて、政策運営として迷走の印象は拭えない。
関連背景
タイを訪れる日本人観光客、タイ在住の日本人にとって、今回の動きは具体的な影響が出てくる。
短期観光で来る人は、大麻関連の店舗を「お土産話の対象」として訪問するのを控えた方が無難。法改正の谷間で「合法のはずだが、実際に検挙対象になるか不透明」な状況が続く。免税範囲外の持ち出し(空港での所持発覚)は、これまでもタイ・日本の両方で違法だが、今後はタイ国内でも所持自体が問題視される可能性が高くなる。
タイ駐在員にとっては、社員旅行・接待・カジュアルな付き合いの場で、大麻関連の体験イベントを企画する事業者からの売り込みが今後減る。コンドミニアム周辺の大麻店も、年内に大半が閉まる前提で、生活圏の風景も変わる。日本人会・日本人学校PTA活動でも、未成年への影響を懸念する声が以前から強かったため、再規制を歓迎する空気が強い。
大麻関連事業に投資した日本人経営者にとっては、最も深刻な局面である。2022〜2024年に「ライセンスを取って店舗運営」「卸売・栽培」「観光向け体験ツアー」に投じた資本回収の見込みが、ほぼ消えた。撤退判断・損失処理を急ぐ事業者が増えそうだ。
残された争点
法案の中身が固まる過程で、まだ残る争点も多い。主な焦点は次の5点になる見込み。
- 医療目的の解釈幅(ストレス・不眠への処方をどこまで認めるか)
- 伝統医の処方権限(タイ伝統医学がを扱う範囲)