タイ厚生省の伝統医学代替医療局副局長テワン氏が5月19日、大麻・ヘンプ法案を7月前に閣議へ提出すると明言した。場所は伝統医学代替医療局の自室で、市民団体の連合が「早期審議せよ」と請願書を持ち込んだ場面だった。
テワン氏は受け取った場でこう続けたという。「娯楽利用は絶対禁止の方針で進める」「年内には無許可大麻店は全て閉鎖になる見込み」と。2022年6月にアジア初の合法化に踏み切ったタイが、わずか4年で「再規制」へ大きく舵を切る、その日付がここで確定したことになる。
請願したのは、薬物乱用学術センター財団、リスク要因低減コミュニティネットワーク、児童青少年家族財団、若年層健康促進ネットワーク、若年心臓病ネットワークなど健康系NGOの連合体。書面の宛先はパッタナー厚生大臣で、テワン副局長が代理で受領した形だ。提示された5項目は、いずれも「全面的に厳格化せよ」という方向で揃っている。
引っかかったのは、政策のスピード感である。2022年6月に合法化、2025年10月に法改正承認、2026年1月に「規制ハーブ」格上げ、そして今回が7月閣議入り宣言。4年で180度の反転を、しかも合法化を主導した当時の厚生大臣(現首相)が自ら手掛けているわけで、迷走と評するか、軌道修正と評するか、見方が分かれそうな展開ではある。
法案で扱えるのは4カテゴリだけ
法案が施行されれば、タイ国内で大麻を合法的に扱える場は次の4種類に限定される。医療機関、薬局、ハーブ製品販売施設、そして伝統医の業務場所。観光地の目抜き通りに並ぶ「Cannabis Cafe」「Weed Shop」の類いは、ここに含まれない。
数字で見ると景色が変わる。タイ全国の大麻関連施設は1月時点で18,433。このうちライセンス更新を申請したのはわずか15.5%にとどまったというから、年内に閉鎖対象となるのは1万5千店を優に超える計算になる。バンコク・パタヤ・チェンマイ・プーケットの繁華街で見慣れた緑のネオン看板は、年末までに大半が消える前提で読んだほうが良さそうだ。
設備要件もそれなりに重い。臭気・煙対策、適切な保管設備、床への直接配置禁止、研修修了スタッフの常時配置、といった項目が並ぶ。観光客が「ふらっと寄って買う」発想の店舗にはハードルが高い。THC含有量0.2%超のエキスは引き続き麻薬指定、花蕾は「規制ハーブ」扱いで医療処方なしには手に入らなくなる。
残る争点
法案最終案が固まる過程で焦点になりそうなのは、医療目的の解釈幅をどこまで広げるか、伝統医の処方権限をどこまで認めるか、研究目的の栽培をどう扱うか、CBD製品の流通規制、そして既存店舗のソフトランディング期間をどれだけ確保するか、あたりだ。
産業側のタイ大麻協会や観光業界連合は「合法事業のソフトランディング期間を1〜2年は確保すべき」と主張している。一方で市民団体側はそれを認めず、即時厳格化を求める。落としどころがどのあたりになるか、6月の最終案で見えてくる。
合法化のときの華やかなニュースと比べて、再規制のニュースは地味だ。けれど、街の風景や個人事業者の損益にとっては、合法化のときと同じか、それ以上に大きな話である。閣議提出と議会審議の日程は、続報のたびに追っておきたい。

