タイ南部スラタニ県パンガン島(コ・パンガン)に長期滞在するイスラエル人コミュニティが約4,000人規模に膨らみ、別途約3,000人の観光客が常時滞在する状況について、経済党(プラチャチャート/Economic Party)所属の下院議員クリス・ポトラナンダ氏が5月17日、政府に対して違法ビジネスと治安リスクへの対応を求めた。同議員が指摘したのは、無許可ホテル・学校・小売店の運営、外国アプリ経由決済による地元経済迂回、ユダヤ教センター「チャバッド」が国際紛争時のテロ標的となる懸念など。プーケットでも4月8日に違法旅行代理店2社が摘発されており、イスラエル大使館は5月7日に滞在者へ「ゼロ・トレランス」警告を発令した。在タイ日本人駐在員にとっても、外国人ビザ・ビジネス規制の引き締めは無関係ではない。
パンガン島の4,000人イスラエル人コミュニティ
クリス・ポトラナンダ議員によれば、パンガン島には現在、約4,000人のイスラエル人が長期滞在ベースで住んでおり、それとは別に約3,000人の短期観光客が島に滞在している。タイ移民局長は、タイ全土に常時滞在するイスラエル国籍者を「10万人未満」としており、パンガン島はその主要な集中地のひとつだ。
パンガン島は満月パーティー(フルムーンパーティー)で世界的に知られる観光地で、低家賃の長期滞在型ヴィラ・コンドミニアム・ゲストハウスが多く、欧米・イスラエルの若者が「数か月単位の滞在拠点」として利用してきた経緯がある。コミュニティの拡大は近年加速しており、地元住民との摩擦が表面化している。
クリス議員の警告内容
クリス議員が5月17日に表明した懸念は以下のとおりだ。
第1に、地域紛争に関連する外部の安全保障リスクへの露出。イスラエルは中東で複数国と敵対関係にあり、タイ国内のイスラエル人施設・コミュニティが国際的紛争の余波を受ける可能性がある。第2に、ユダヤ教センター「チャバッド」が国際紛争期間中の潜在的テロ標的になる懸念。第3に、ビザ免除入国政策の長期的影響を当局が見直すべきという提言。第4に、無許可ホテル・学校・小売店の営業、外国アプリ経由の決済で地元経済を迂回する金融取引、騒音・薬物・違法ビジネス活動の苦情の累積。
議員は「ビザ免除プログラムの見直しまたは完全廃止」も視野に入れた審議を求めている。
プーケット違法旅行代理店摘発(4月8日)
南部のもう一つの観光地プーケットでも、4月8日にイスラエル国籍者が「タイ人代理人(ノミニー)」を介して旅行代理店を違法経営したとして摘発されている。当局が違法営業の疑いで特定したのは「Gmat Hospitality」と「Andaman Sunday」の2社で、タイ外国人事業法に違反する形態だった。
パンガン島でも5月13日に警察266人を投入したノミニー摘発作戦で29箇所を捜索、243社をネットワーク調査の対象とし、5月14日には外国人保有関連の企業が68%を占めることが判明している。タイ警察と内務省は外国人がタイ人を名義人にした事業形態への摘発を強化中だ。
イスラエル大使館の「ゼロ・トレランス」警告(5月7日)
イスラエル在タイ大使館は5月7日、滞在中の自国民に向けた警告を発出した。要旨は次のとおり。
地元法律と規制の厳密な執行が実施される予定で、深刻な違反はビザ取消と国外追放手続きに至る可能性がある。運転免許なしでの運転違反については「ゼロ・トレランス」方針で、例外なく法廷措置を取る。タイの法律周知のための啓発キャンペーンも拡大する。
イスラエル大使館がここまで踏み込んだ警告を出すのは異例で、タイ政府の取り締まり強化が現実的に近づいていることをイスラエル側も認識していると読める。
タイ政府の対応とアヌティン首相のパンガン島視察
タイ政府は5月13日にアヌティン・チャンウィーラクン首相と4閣僚をパンガン島に派遣し、視察を実施。首相は「海岸は国民のもの」と発言し、外国人による海岸の私物化・違法ビジネスに対する強い姿勢を示した。
政府機関は(a)パンガン島の成長するイスラエル・コミュニティの実態調査、(b)違法観光企業やタイ人代理人を伴う外国人関連の苦情調査、(c)外国人による違法ビジネスと不適切な労働慣行への取り締まり強化、を同時並行で進めている。
北部メーホンソン県パイ地区でも前年、ユダヤ教シナゴーグ設立をめぐり地元住民の懸念が表面化しており、外国人コミュニティの問題は南北で同時進行している。
関連背景
直接的な影響は薄いが、(1)タイのビザ免除政策の見直し議論は、日本国民の30日免除入国にも波及する可能性がある(現時点で具体的な日本人対象議論はない)、(2)パンガン島・プーケットなど観光地での「タイ人ノミニー」を通じた事業形態は、日本人駐在員・起業家にも一般的なリスクとして認識すべき、(3)タイ外国人事業法はリスト1〜3の業種制限が厳格で、5月12日の閣議改正で8業種が許可不要に変更されたが、対象外の業種は引き続き許可制、を意識するのが現実的だ。
タイ警察と内務省の取り締まり強化は南部観光地から始まったが、バンコク・チェンマイなど駐在員集中地域にも波及する可能性がある。事業形態の合法性は、駐在員家庭の生活・ビザ・銀行口座まで連鎖する重要論点だ。


