タイ観光局南部第1地区(สาขาภาคใต้ เขต 1)のパタカン・ケーオモラコット観光業・ガイド事業登録官が5月20日、スラタニー県サムイ島で外国人がタイ人を「ノミニー(名義貸し)」として利用していたツアー会社4社の事業許可を正式に取り消したと発表した。違反内容は、許可申請時にはタイ人を取締役に立てて要件をクリアした後、許可取得後に外国人取締役に置き換える「すり替え型」のノミニー手口。ブラックリスト入りした7名はタイ人3名と外国人4名(イスラエル・フランス・ベルギー・イタリア)で、今後5年間タイ国内でツアー事業の許可申請ができなくなる。商業省・特別捜査局(DSI)と連携した「ノミニー一掃作戦」の第1弾として、パンガン・サムイを起点に全国展開される予定。
取り消しの経緯
タイ観光局・観光警察サムイ・スラタニー県観光スポーツ事務所の合同調査チームが、サムイ島内のツアー事業者12社を対象に5月の現地調査を実施。その結果、4社で実際の運営が外国人主導で行われている実態が確認された。
タイの2008年ツアー事業・ガイド法第17条(1)項では、ツアー会社の取締役の3分の2以上がタイ人であることを義務付けている。観光産業を地元雇用・税収・文化保護の柱と位置付けるための規制で、外国人主導の事業運営を制限する基本ルールとなっている。
今回発覚した手口は次のパターン。
- 設立時: タイ人を取締役に立てて法定要件をクリア
- 許可取得後: タイ人取締役を解任して外国人取締役に置き換え
- 実態運営: 外国人が単独または主導で事業を運営
- 利益分配: 名目上のタイ人ノミニーには少額の謝礼のみ
最も悪質と判断された1社は、ジェットスキーツアー事業をイスラエル国籍の単独取締役で運営していたケースだった。
7名のブラックリスト構成
許可取消と同時に、関与した7名がブラックリスト入りした。
今後5年間、ブラックリスト入りした7名はタイ国内でツアー事業の許可申請ができない。また、商業省地方事務所への追加捜査依頼を行い、ノミニーを使った法人設立そのものの違法性についても別途立件を進める方針。
パンガン・サムイで11,426社・67%が外国人主導
タイ商業開発局(DBD)・特別捜査局(DSI)・観光局の3機関合同捜査チームによる調査では、サムイ島・パンガン島の事業登録法人11,426社のうち、約67%が実態として外国人主導で運営されている可能性が指摘されている。
特に深刻な事例として、1人の人物が87社の持分を保有しているケースも発覚。ノミニーが組織的に複数法人にまたがって「便利屋」役を引き受け、外国人事業者・事業者の隠れ蓑となっている構造が浮き彫りになっている。
「ノミニー一掃作戦(ปฏิบัติการถอนรากนอมินี)」は、DBD・DSI・観光局・観光警察の合同チームで2026年4月から本格始動。第1弾としてパンガン・サムイ両島を集中的に調査し、第2段階以降はプーケット・パタヤ・チェンマイ・チェンライなど主要観光地に拡大される計画。
2008年ツアー事業・ガイド法の重要条文
タイのツアー事業を規制する法律として、2008年ツアー事業・ガイド法は次のような基本要件を定めている。
- 第17条(1): 取締役の2/3以上がタイ人
- 持分構成: タイ人51%以上(タイ国内事業の一般則を適用)
- 経営実態: タイ人取締役が実質的に経営決定権を持つ
- ガイドライセンス: タイ人のみが正規ガイド資格を取得可能
これらの規定は、ツアー業界に限らず外国人事業法・外国人就労法と連動しており、ノミニー違反は「複合的な違法行為」として複数の法律で立件される構造になっている。
合法参入経路としてのBOI・ジョイントベンチャー・LTRビザ
タイで観光業・サービス業に投資・参入する日本人事業者にとって、今回のサムイ事件は重要な警告となる。
タイの観光業は外国人事業参入制限が厳格で、表面的にタイ人取締役を立てる「ノミニー方式」は短期的には機能するが、長期的にはほぼ確実に摘発される構造に変わってきている。DBD・DSI・観光局・商業省の電子データ連携が進み、持分保有者構成・取締役変更履歴・実質支配者の特定が以前より格段に容易になっているためとされる。
合法的な参入経路は次のような選択肢がある。
- BOI(投資奨励委員会)認可事業として申請(一部業種で外国人持株比率の制限緩和あり)
- ジョイントベンチャーで実体あるタイ人パートナーと共同運営
- EEC(東部経済回廊)・SEZ(経済特区)の優遇制度を活用
- タイランドエリート/LTRビザでの個人投資家としての参入
短期的なノミニー方式に頼ると、ブラックリスト入り・強制退去・財産没収のリスクが伴う。
DSI・DBD・観光局の連携体制
今回の摘発は、複数の官公庁が連携した「ノミニー一掃作戦」の典型例として位置付けられる。
今後数か月で、パンガン・サムイ以外の主要観光地でも同様の摘発が予想される。商業活動の電子データ化が進む中で、外国人ノミニー方式の生存余地は急速に狭まりつつある。
5月22日からの全国展開予定
タイ商業省は「ノミニー一掃作戦」を2026年5月22日から全国規模に展開すると発表している。第1段階のパンガン・サムイから、第2段階はプーケット・パタヤなどの観光地、第3段階はバンコク・チェンマイなどの大都市に順次拡大される計画。
司法省も並行して、外国人ノミニー登録を防止するための法整備に着手しており、設立時から実質支配者の特定を義務付ける方向で議論が進んでいる。


