タイ人男性が2026年5月15日、SNSグループ「人生破産者グループ(ชีวิตคนล้มละลาย)」に12年間日本で「ピーノーイ(不法滞在労働者)」として働いて貯めた7.8百万バーツ(約3,500万円)が、帰国したら口座にゼロだったという衝撃の体験談を投稿した。家族(母)に毎月送金して貯めていた金額がすべて消え、家は抵当に入れられ、貸金業者からの取立てが始まっている。タイ社会で「ピーノーイ」と呼ばれる海外不法就労者の悲劇と、家族関係の闇を同時に映し出すケースだ。
2010年に渡日、漁業で12年稼ぐ
投稿者の男性は2010年(仏暦2553年)に日本へ渡った。叔父が先に日本で漁業に就労しており、彼女と2人で叔父を頼って渡航した。雇い主は親切で、長年安定して働けた。2018年に叔父が腰痛で帰国した後も、男性と彼女の2人で日本での労働を続けた。雇い主は「お前の母の口座に毎月直接送金してくれ」という依頼にも応じてくれた。男性は自分名義の口座を持たず、海外から残高確認できない問題を回避するため、母の口座を貯蓄先にした。
7.8百万バーツの積み立て、しかし
12年間の労働で積み上がった金額は約7.8百万バーツ(約3,500万円)。月々の送金で母が管理していたはずだったが、結婚を考えて2026年にタイへ帰国した際、口座を確認したら残高はゼロ。家は抵当に入れられ、貸金業者からの取立ても始まっていた。男性は「日本での働きは死ぬほど辛かった」と振り返り、腰と膝の関節痛で身体が動かなくなった頃に帰国を決めたという。
「彼女が去ったのは恨まない」
衝撃の事実が判明した後、彼女は男性のもとを去った。男性は投稿で「彼女には恨みはない。8百万バーツがあった2人を一緒にいさせた理由が消えた」と冷静に語っている。30代半ばで結婚を予定していた2人の人生設計が、母の管理ミス(もしくは意図的な使い込み)で完全に崩れた形だ。投稿は急速にSNSで拡散し、「母に預けるのは危険」「ピーノーイは家族関係まで壊す」など、タイ社会の家族構造への議論につながっている。
タイの「ピーノーイ」問題、日本・韓国の不法滞在
タイ語の「ピーノーイ(ผีน้อย、小さな幽霊)」は、外国でビザ条件を超えて不法滞在しながら働くタイ人労働者を指す俗称。韓国・日本・台湾・イスラエルなどへの渡航が多く、特に韓国は10万人超の不法滞在者がいるとされ、タイ政府も最近、韓国行きの労働者をブラックリスト化する措置を取り始めた。日本も漁業・農業・建設業で多くのタイ人ピーノーイが働いている。今回のケースは、長期間の海外不法労働で家族に預けた金が消失するというリスクが、現実に起き続けていることを示す。
駐在員家庭への含意
タイ駐在員にとって、ピーノーイ問題は「タイ社会のもう1つの顔」だ。タイ人スタッフ、家政婦、運転手などが家族の海外労働を支えているケースは多く、メイドのご主人が日本・韓国に出稼ぎ中、というケースに遭遇することがある。在タイ日本人企業のCSR活動として、合法的な技能実習生・特定技能ビザ経由の労働支援を検討する企業もある。ピーノーイの問題は労働ビザ制度の歪み、貧困層の経済機会、家族関係の脆弱性が複合した構造的課題で、個別の悲劇話の背後にタイ社会の縮図が見える。