タイ・チャンタブリ県プナム・ロン区のバン・パッカット国境検問所で2026年5月15日、カンボジアの刑務所から釈放された40人のタイ人が本国送還された。タイ警察が全員に対し人身売買被害者スクリーニング(NRM)と犯罪歴照会を実施したところ、6人に既存事件の逮捕状が出ており即座に拘束、さらに15人がコールセンター詐欺グループの「mule account(マネーミュール口座)」供給に関与していたことが判明した。タイ-カンボジア国境エリアの詐欺ネットワーク問題が、釈放者の中にも深く浸透していた実態が浮き彫りになる事案だ。
チャンタブリ県プナム・ロン経由で40人送還
送還の窓口になったのは、チャンタブリ県プナム・ロン区クロン・ヤイ町にあるバン・パッカット恒久国境検問所。アルクポン・スンタラヴィパート警察大佐(チャンタブリ警察副司令官)が指揮を執り、プナム・ロン警察、チャンタブリ入管、第1国境防衛軍、Chanthaburi海兵特殊任務部隊(チョク・ジョー)が連携して受け取りを実施した。送還前のプロセスはカンボジア・シェムリアプのタイ総領事館経由で進められた。
40人中6人に逮捕状、即拘束
タイ警察は全員に対し、(1)人身売買被害者スクリーニング(NRM、National Referral Mechanism)と、(2)犯罪歴照会を実施。結果、40人のうち6人に既存事件の逮捕状が出ていることが判明、その場で身柄を拘束して関係警察署へ移送した。逮捕状の罪状は公表されていないが、過去の窃盗・詐欺・薬物・暴力事件などが含まれていると見られる。
さらに15人がmule account(マネーミュール口座)関連
残り34人の中で15人が、コールセンター詐欺グループの「mule account」(マネーミュール口座)供給に関与した経歴があると判明した。mule accountとは、詐欺収益の資金洗浄に使う他人名義の銀行口座で、口座開設役は通常1口座あたり25,000バーツ程度で雇われる。タイの貧困層が国境を越えてカンボジア側で口座を開き、詐欺グループに譲り渡すスキームが急増しており、5月13日にはサケーオ県でも24人が逮捕されたばかりだ。
国境警備と詐欺ネットワーク
警察はこの40人のグループに「不法越境の経歴」も指摘している。タイ-カンボジア国境はここ数週間、発砲事件・ドローン越境・部隊集結などで緊張が続いているエリアで、その緊張環境を悪用して詐欺ネットワークが越境密入国を組織的に行っている可能性がある。今回の40人送還は、刑務所釈放という入口で詐欺ネットワークの構成員を特定できた成功事例とも言える。一方で、タイ側に戻った後にどう更正・処分するかは、人身売買被害者と犯罪関与者の線引きが難しい複雑な課題だ。
関連背景
タイで暮らす日本人駐在員にとって、カンボジア・ミャンマー国境エリアの詐欺ネットワーク問題は「遠い話」に見えるが、実際にはタイ全国の金融システムを通じて影響を及ぼしている。コールセンター詐欺被害は日本人駐在員も標的になっており、特に「家族・友人を装った金銭要求」「投資詐欺」「フィッシング」などの手口でmule accountが資金洗浄経路として使われる。今回の摘発で15人のmule account供給役が拘束されたことで、ネットワークの一部に打撃が入る可能性はあるが、ネットワーク全体は依然として活発だ。



