タイ東部プラチンブリー県カビンブリー郡の国道304号沿いで5月13日、65歳の男性労働者が上司と同僚に森の中へ置き去りにされ、所持金わずか14バーツ(約68円)で猛暑の中を50km以上徒歩で歩き続けるという出来事が報じられた。地元の屋台と通行人の善意で何とか食事にありつき、現場記者の取材で事実関係が明るみに出た形だ。タイ地方部で雇用主が末端の労働者をどう扱うかの実態を映し出す、悲哀のあるローカル事件だ。
国道304号で発見された65歳男性
報道のきっかけは、サイミットスクサ学校前の国道304号沿い、カビンブリー郡カビン町を歩く高齢男性の姿だった。男性は長袖の青色Tシャツにショートパンツ、古い肩掛けバッグを2つ背負い、汗だくの状態で歩いていた。現場の暑さは猛暑そのもの。記者が車を止めて声をかけたのが事の始まりだった。
「肉串もち米」屋台で2包と赤シロップ水
男性はそのまま、ラートタキエン町のバンチャクガソリンスタンド前にある「カーオニアオ・ムーピン」(もち米と豚串焼き)屋台を通り過ぎようとしていた。記者が食事をおごると申し出ると、最初は遠慮して「1包だけ」と答え、奢られると分かってから「では2包」と頼んだ。屋台の売り子も気の毒に思い、ナムデーン(タイ式赤シロップ水)を1杯差し入れた。男性は名前を「デーン・チューウィリーモアイ」と名乗ったという。
携帯電話なし、所持金14バーツ、徒歩で50km
男性によると、雇い主と同僚に森の中で置き去りにされ、携帯電話も持たないまま「同僚を探して」歩き始めた。歩いた距離は50km以上、所持金は14バーツしか残っていない状態だった。日中の猛暑、舗装道路の照り返しの中、65歳という年齢で何時間も徒歩で歩き続けたことになる。
タイ地方部の労働環境を映す事件
タイの地方部では、農作業や林業、建設現場などで、賃金が日払い・現金払いの非公式雇用が今も主流だ。雇い主と労働者の関係は人間関係に依存しており、契約書もない場合が多い。今回のように高齢の労働者が現場で見捨てられる事案は、表沙汰になるのが氷山の一角という見方もできる。労働行政や警察の正式な介入があるかは現時点で不明だが、ニュース化されたことで、地元行政や福祉団体の支援が動く可能性はある。
関連背景
直接巻き込まれるシーンは少ないものの、地方を運転していると路肩を歩く高齢者を見かけることがある。今回のように緊急性の高い事情を抱えているケースは決して珍しくない。可能であれば水分や少額の食事を差し入れる、近隣の村役場(オーボートー)や警察に通報するなど、簡単な助け方があることは知っておいて損はない。タイ社会の底辺に近い層の現実が、こうした路上の場面で時折表に出てくる。






