タイの刑事裁判所(公務員汚職・背任専門)は4月21日、ナコンパトム県ワット・ライキンの元住職タイット・エーム(俗名ヤーム・イントラクルンカオ)に対し、寺院資金20億バーツを横領した罪で懲役50年の判決を言い渡した。同案件の共犯として起訴されたシーカーゲン(俗名アランヤーウワン)にも懲役8年が宣告された。両被告は即座に控訴する意向を表明している。
寺院の公共資産を管理する立場にある住職がその職務を私物化した、タイの仏教界でも最大級の横領事件である。起訴された罪状は、公務員として購入・製作・管理・保管する財産を私的に領得した罪、職務上の権限を不当に行使して損害を与えた罪、第三者に資産を流用させた罪など、複数の条項にわたる。シーカーゲンはこれらの犯行を幇助した従犯として位置付けられた。
20億バーツは日本円で約90億円に相当する。寺院への寄付、仏像建立費、檀信徒からの供物など、本来は寺の維持と地域の信仰生活に還元されるべき資金が、元住職とその関係者の私欲に流用された格好である。タイ社会では仏教寺院への信頼は非常に強く、同時に住職を通じた大きな資金の流れが存在するため、監督体制の弱さが事件の温床となっていた。
裁判所は判決に合わせて、シーカーゲンの保釈申請を却下した。理由は「刑罰が重く、保釈されれば逃亡の恐れが大きい」というもので、タイット・エームもすでに勾留が続いている状況である。控訴審でも短期間で結論が出る見込みは薄く、両被告は長期の拘束を覚悟しなければならない。
タイの仏教界では、過去にも高位の僧侶が関与する資金流出事件が複数起きており、国家仏教局が改革を進めようとしている。先に報じたアユタヤのサナームチャイ寺院住職が1ヶ月失踪した事件や、コンケーンで毎日ビールを買っていた僧侶がスリンに送還された事例なども同じ文脈で、仏教組織のガバナンスが問われ続けている。
在タイ日本人にとっても、寺院との関わり方を考え直す機会となる。観光や冠婚葬祭で寺院に寄付する場面は多いが、資金の使途は寺院ごとに大きく異なる。信心と資金管理は別の問題として整理し、大口の寄付には透明性のある受付ルートを選ぶ姿勢が、タイ社会全体の仏教信頼を支えることにもつながる。