舞台となったのはアーントーン県ウィセートチャイチャン郡にある「ルアンポーカオ(白仏)」が安置されたタイ様式の木造東屋だ。4月1日夜、兵役免除を祈願していた若者たちが次々と訪れた。ブリキのバケツを叩きながら音楽に合わせて全裸で仏像の周囲を走り、願掛けを解いた。
タイでは毎年4月、21歳の男性を対象にした徴兵くじが全国で実施される。会場に設けられた箱からくじを引き、赤札なら2年間の兵役、黒札なら免除。赤札を引く確率はおよそ2割で、結果発表の瞬間は毎年メディアやSNSで大きな話題となる。2026年の選抜は4月1日から12日にかけて行われている。
ルアンポーカオはアユタヤ時代の美術様式で造られた白い漆喰の仏像で、高さ約1.8メートル。地元では「兵役免除に御利益がある」と信じられており、くじ引き前に「黒札を引けたら裸で走ります」と誓う者が多い。免除が確定すると夜に寺を訪れ、誓った周回数だけ全裸で仏像の周囲を走る。地元ではこの光景を「ギウケーパー(裸芝居)」と呼び、毎年4月の風物詩として親しまれている。
タイの願掛けは日本の「お百度参り」に似た側面がある。神仏に願いが叶ったら何かをすると誓い、叶えば必ず実行する。約束を果たさなければ罰が当たるとされるため、どれほど大胆な誓いでも履行するのがタイの信仰文化だ。裸で走るという一見突飛な行為も、信仰に基づく真剣な感謝の表現である。
徴兵くじは毎年ドラマを生む。結果にショックで卒倒する者、喜びのあまり踊り出す者が続出する。トランスジェンダーの参加者が注目を集めるなど、タイ社会の縮図ともいえる光景だ。日本の自衛隊が志願制であるのに対し、タイではくじ引きという運任せの方式が今も続いている。