タイ中央銀行が認可したタイ初のバーチャルバンク「CLICX(クリックス)」が、6月に動き出す。クルンタイ銀行とAIS、ガソリンスタンド大手OR(PTTの石油・小売事業)の合弁で、店舗を持たずスマホアプリだけで口座開設から貯蓄、融資までを完結させる。6月2日からは、口座番号を自分で選べる予約がAISの公式アプリ「myAIS」で始まる。
CLICXとは何か、タイ初のバーチャルバンクの中身
バーチャルバンクは実店舗を持たず、スマホアプリだけで銀行サービスを提供するネット専業銀行を指す。CLICXはタイ中銀から2026年5月14日に認可を受け、国内で初めてのバーチャルバンクとなった。アプリの正式公開は6月19日を予定する。「Bank in One CLICX」を掲げ、AIや利用者の行動データ、給与明細以外の代替データを使って、一人ひとりに合った金融サービスを届けるという。最低入金額はわずか10バーツ(約49円)からで、口座を持つハードルを大きく下げる。日本では楽天銀行やソニー銀行といったネット専業銀行がすでに定着しているが、タイで本格的なバーチャルバンクが立ち上がるのは今回が初めてだ。
クルンタイ・AIS・OR連合、顧客基盤は5,000万人超
CLICXは、クルンタイ銀行が銀行システムの基盤を、AISが通信技術と利用データを、ORが全国のガソリンスタンド・小売網を持ち寄る座組みだ。3社を合わせた顧客基盤は5,000万人を超える。貯蓄商品はモバイルデータ通信量やコーヒー、燃料といった各社の特典と連動させ、融資は銀行・通信・小売の利用履歴を組み合わせた独自の与信審査を用いる。CEOにはスポーン・スントーンロヒット氏が就いた。初年度はまず利用者の獲得を優先し、融資残高の拡大は段階的に進める方針だという。
狙いは「金融包摂」、フリーランスや個人事業主に照準
CLICXが最大の目標に据えるのが金融包摂である。これまで信用履歴や安定した収入証明が乏しく、従来の銀行では融資を受けにくかったフリーランスやギグワーカー、ネット販売の個人事業主などを主な対象とする。通信料の支払い状況や小売での購買といった行動データを代替データとして審査に使うことで、正規の給与明細に頼らない与信を目指す。屋台や個人商店、日雇いなど現金経済の比重が大きいタイで、こうした層をどこまで取り込めるかが普及の鍵を握る。
口座番号を自分で選べる、6月2日から予約開始
消費者向けの目玉が、口座番号を自分で選べるサービスだ。myAISアプリから、語呂のよい数字や連番、縁起のいい番号、自分の携帯番号の下7桁と同じ番号などを選んで予約できる。予約開始は6月2日で、タイ国籍で15歳以上、本人名義のAIS番号を持つ利用者が対象となる。1人につき一つの口座番号を予約できる。タイは縁起のいい数字へのこだわりが強く、携帯番号や車のナンバープレートでも吉数が高値で売買される。口座番号の選択制は、その文化的な感覚に合った仕掛けだ。
3陣営の一番乗り、タイのデジタル金融が新段階へ
タイ中銀は2025年6月、5つの応募の中からCLICX(クルンタイ・AIS・OR)、SCBX陣営、CP系のアセンド・マネー(トゥルーマネー運営)の3陣営にバーチャルバンクの設立を認可した。各陣営は認可から1年以内の営業開始を義務づけられており、CLICXがその一番乗りとなる。スマホ決済プロンプトペイが広く普及したタイで、次はネット専業銀行が金融の裾野をどこまで広げるか。CLICXの船出はその試金石となる。


