タイ観光・スポーツ相スラサック・パーンプラパ氏が観光庁(TAT)に対して、2026年(仏暦2569年)の外国人観光客目標を当初の3,670万人から3,000万〜3,400万人に下方修正するよう正式に指示した。年初4ヶ月の累計訪問客は1,190万人と低迷しており、第1四半期(1-3月)単体では前年同期比2.51%減の931万人にとどまる。中東情勢の長期化が観光業全体に響き続けており、第2四半期(4-6月)を超えても戦争が続けば、年間目標3,300万人を下回る可能性が公式に認められた形となる。
18%下方修正の根拠
タイ観光庁(TAT)タパニー・キアルティパイブーン長官は記者会見で、当初目標から18%の下方修正に踏み切る理由を次のように整理した。
- 中東地政学リスクの長期化(イスラエル・イラン軍事衝突継続)
- ホルムズ海峡封鎖期間中の航空運賃高騰
- 中国市場の回復力が限定的
- 欧米市場のバーツ高による旅行控え
- 航空路線の限定的な復旧
新しい目標レンジは3,000万〜3,400万人で、最悪シナリオで3,000万人、最良シナリオで3,400万人を想定。第2四半期内に中東情勢が落ち着けば3,400万人達成も視野に入るが、長期化すれば3,000万人を割り込むリスクも残る。
第1四半期実績と主要市場
2026年第1四半期(1-3月)の外国人観光客数は931万人で、前年同期比2.51%減となった。
上位5市場の内訳は次の通り。
- 中国: 149万人(1位)
- マレーシア: 96万人
- ロシア: 72.6万人
- インド: 62.6万人
- 韓国: 41.2万人
中国市場の回復力が限定的だったことが最大の要因。コロナ禍後の中国本土からの観光客流入は2024年水準の8割程度で頭打ちとなっている。一方、マレーシア・ロシア・インド・韓国は安定した流入を維持しており、市場多様化戦略の効果も出始めている。
第2四半期超えの戦争シナリオ
スラサック観光相は今回の指示において、中東戦争が第2四半期(4-6月)を超えて続く場合の対応シナリオを観光庁に検討させている。
- 第2四半期内に終戦: 年間3,400万人達成を目指す
- 第3四半期(7-9月)も継続: 3,200万人前後に再修正の可能性
- 年末まで継続: 3,000万人を下回るリスク
タイ観光業はGDPの約12%を占める基幹産業で、外国人観光客数の変動は経済全体に直接波及する。3,000万人ラインを割り込めば、観光関連雇用・サービス業・小売業全体への悪影響が懸念される。
観光収入2.58兆バーツの維持戦略
数量目標の下方修正に対して、観光収入目標は2.58兆バーツ(約11兆8,680億円)を維持する方向で調整されている。これは「数より質」戦略への明確なシフトを意味する。
具体的な取り組みは次の通り。
- 高単価消費観光客への誘致集中(欧米・中東富裕層)
- ロングステイ・ワーケーション需要の取り込み
- ヘルスツーリズム・ウェルネスツーリズムの拡大
- MICE(国際会議・展示会)市場の強化
- 質の高い観光体験への投資集中
タパニー長官は「中国・東南アジアの大衆観光客は短期で戻る見込みは薄い。欧米・中東の高消費観光客を着実に取り込むことで、客数減を収入で補う構造に移行する」と説明した。
60日フリービザ廃止との連動
今回の観光目標下方修正は、5月19日に閣議承認された「60日フリービザ廃止」とも連動する政策パッケージの一部となる。
60日フリービザは観光目的を超えて長期滞在する外国人が増える原因と指摘されており、これを廃止することで「短期高消費観光客」への絞り込みを進める設計。パタヤ・チェンライ・サムイなど主要観光都市の業界団体は廃止を支持しており、観光相の方針と歩調を合わせている。
新フリービザ制度(30日5,400カ国対象+15日新設3カ国+到着ビザ31→4カ国に縮小)は、官報掲載後15日経過で施行される予定。日本人観光客は60日→30日に短縮されるが、観光・短期出張の標準滞在では大きな影響はないとされる。
外国人観光税UP案
スラサック観光相は並行で、から徴収する観光税の引き上げも提案している。現行の300バーツ(空路)・150バーツ(陸路・海路)を引き上げて、保険補償を厚くする案で、観光客の安全保証と観光関連インフラ整備を狙う。