タイ国営石油大手PTT(タイ石油公社)が、世界的エネルギー危機への対応として2,300億バーツ(約1兆580億円)規模の予算を投入し、国内への燃料供給を確実に維持する方針を5月20日に発表した。PTTグループ8社の2026年第1四半期合計利益は約980億バーツ(約4,508億円)に達し、石油在庫評価益と精製マージン拡大が牽引した。一方、2026年第2四半期は上流探査・採掘(E&P)とトレーディング事業が事業を支える見通しで、精製所合弁パートナー探索の遅延が新たな課題として浮上している。
PTTの2,300億バーツ予算配分
PTTが投入する2,300億バーツ予算の主要な使途は、世界エネルギー危機を踏まえた次の領域に集中している。
- 上流E&P(探査・採掘)事業の継続投資
- LNG調達と備蓄能力の拡張
- アジア・アフリカ・北米からの代替原油調達ルートの整備
- 国内精製所の安定稼働
- 燃料サプライチェーンのバックアップ体制構築
タイのPTTグループは、財務省が約52.32%の持分を保有する国営企業で、政府全体での実質的持分は約68%に達する。タイ国内の石油・天然ガス供給の基幹を担う立場として、世界エネルギー危機下での「最後の砦」となる役割を強化する。
Q1グループ8社合計980億バーツ利益
PTTグループ8社(PTT本体・PTTEP・PTT Global Chemical・Thaioil・GPSC・PTTOR・IRPC・PTT Trading)の2026年第1四半期(1-3月)合計利益は、約980億バーツに達した。
主な利益寄与要因は次の通り。
- 石油在庫評価益: 3月のホルムズ海峡封鎖期間中の価格高騰
- 精製マージンの拡大: 国内外の精製能力差を活用
- LNG・天然ガス取引の高値継続
- 上流E&P事業の安定収益
2026年3月の燃料危機期間中、タイ国内ではディーゼル価格が1週間で34%急騰する事態が発生したが、PTTは備蓄取り崩しと代替調達で国内供給を維持。その過程で在庫評価益が膨らみ、Q1の好決算につながった構造とされる。
Q2見通しと精製所合弁の遅延
2026年第2四半期(4-6月)のPTTグループの収益は、上流E&P事業とトレーディング事業が牽引する見通し。エネルギー価格の高止まり継続と、世界の石油トレーディング市場でのタイの存在感拡大が背景にある。
一方、PTTが進めていた精製所合弁パートナーの探索は遅延している。計画では海外大手石油会社との合弁で精製能力を拡張する予定だったが、世界エネルギー市場の不確実性により、相手先の意思決定が遅れている状況。
合弁延期はPTTの中長期成長戦略に影響を及ぼす可能性があり、関係筋によると年内の合弁締結は困難で、2027年以降にずれ込む見通しという。
世界エネルギー危機の背景
タイのエネルギー政策は、2026年2月末のイスラエル・イラン軍事衝突によるホルムズ海峡封鎖を機に、根本的な見直しが進められている。タイの輸入原油の約60%はホルムズ海峡経由の中東産で、海峡封鎖は国内エネルギー供給の死活問題に直結する構造だった。
この危機を受けて、タイ政府は石油基金を活用した燃料価格安定化、PTTに対する代替供給源確保の指示、95日分の戦略備蓄の維持などの対応を実施。米国・マレーシア・アフリカ諸国からの代替原油調達ルートの構築が並行で進められている。
「燃料切れない」宣言の重み
PTT経営陣が「燃料は切れない」と明言したのは、3月のホルムズ海峡封鎖期間中に一部地域で燃料供給不足が発生した経緯を踏まえた強い意思表示。
3月の燃料危機時には、タイ警察庁・エネルギー事業局の合同捜査で、業者がタンカー23隻分5,080万リットルを備蓄工作し、市場から消失させた人為的不足の構造も判明している。タイ国内の精製会社6社が立件され、政治家関与は未発見との発表があった。
PTTはこうした人為的不足の影響を最小化するため、自社の備蓄・調達ネットワークを直接強化する方向に舵を切った形になる。
ガソリンスタンド系列の安定供給網
タイ国内のガソリンスタンドは、PTT系列(青色看板)・バンチャク(緑色看板)・Shell・Caltex・Esso などが競争する構造。PTTの2,300億バーツ予算は、自社系列スタンドへの安定供給を最優先で確保する方針で、他系列も間接的に恩恵を受ける構造になる。
タイ国内の物流業界・運輸セクターにとって、燃料供給の安定はガソリン代・物流コスト・電気代・食料品価格の安定に直結する重要なインフラ基盤。PTTの今回の予算投入は、日常コストの予測可能性を高める意味でも大きい。
市場の反応
PTT本体の市場評価は、5月20日の発表前後で大きな変動はなかったが、PTTEP(石油探査・採掘子会社)とThaioil(精製子会社)はQ1好決算を反映して堅調に推移している。タイのエネルギーセクター全体が2026年初来で約12%上昇しており、PTTグループはエネルギー業界全体の動きを支える存在となっている。
5月20日の外国人取引動向は限定的な売り越しが報告されているが、PTT本体への売り圧力は小さい水準にとどまっている。
関連の続報
タイ燃料危機関連の前回報道として、本サイトでは次の記事を公開している。
6月以降の供給安定性
PTTの今回の予算投入により、2026年6月以降のタイ国内燃料供給は当面安定する見通し。ただし、ホルムズ海峡情勢、米国・イラン関係、ロシア・ウクライナ情勢など世界の地政学リスクが再び高まれば、追加の対応が必要になる可能性もある。
タイ政府・PTTは「最大95日分の戦略備蓄」を維持する方針で、緊急時の対応余地を確保している。

