タイ国鉄(SRT)が5月19日、首都圏近郊鉄道Red Lineの延伸区間「シリラート病院-タリンチャン-Salaya」の建設契約を、UTジョイントベンチャー(ユニックエンジニアリング&コンストラクション+トラスティコンストラクション)と正式に締結した。契約総額は147.2億バーツ(約670億円)、着工は7月15日、開業予定は2029年7月。バンコク西部からナコンパトム県境のSalayaまで一本でつながる、首都圏通勤鉄道の長年の宿題が動き出す。
Salaya一帯にはマヒドン大学Salayaキャンパスがあり、シリパチャラーマツ大学やキングモンクット工科大学Bangsue付近への通学・通勤需要が大きい。さらに王宮地区シリラート病院から直通になるため、地方からバンコク中心部の総合病院へ通う患者導線も改善する。
契約の中身
契約相手はユニック・エンジニアリング・アンド・コンストラクション(タイの上場大手ゼネコン)を主幹事とする、トラスティ・コンストラクションとのジョイントベンチャー。応札の中で最も低い金額147.20億バーツを提示し、5月19日にSRTのアナンSRT副総裁(総裁代行)が署名した。
工区は全長20.50キロ。うち13.83キロが地上区間、6.67キロが高架区間で、9駅を設置する。駅はシリラート、バーンクンノン、タリンチャン水上マーケット、ラーマ6世橋、バーンクワイ-EGAT、バーン・チムプリ、カンチャナピセーク、サラタンマソップ、Salayaの順。このうちラーマ6世橋・バーンクワイ-EGAT・バーン・チムプリの3駅は、当初設計に後から追加された駅となる。
なぜ延伸が重要なのか
Red Line(正式名称:首都圏近郊鉄道Red Line)は、もともとバーンスーをハブに北はランシット方面、西はタリンチャン方面に伸びる近郊通勤鉄道。2021年8月に営業運転を開始したが、開業時点ではタリンチャンが西端で、Salayaまで延伸する計画は予算の都合で先送りになっていた。
タリンチャンから西の郊外住宅地・大学エリアへの公共交通は、ミニバスとソンテオが主役で、雨期や夕方ラッシュ時にはチャラン・サニットウォン通り・ボロムラチャチョナニ通りが定期的に渋滞する区間。Salayaまでの鉄道が動けば、マヒドン大学Salaya校・キングモンクット工科大学トンブリー校・サラタンマソップの住宅街から、バンコク中心部のシリラート病院・バーンスー中央駅・ラチャダムリ方面までが乗り換え1〜2回で行ける形になる。
Salaya一帯の住宅事情と通勤導線
タリンチャン以西は、中心部より家賃が20〜40%安く、戸建てやタウンハウスでまとまった面積を組めるエリアとして根強い需要がある。マヒドン大学Salayaキャンパス周辺、サラタンマソップの新興住宅地、Ban Chim Phli周辺の在来住宅街などは、子育て世帯やロングステイ層の選択肢になってきた。日本人会のSalaya方面在住者や、日本人学校(JSB)関係の家族も一定数いる。
これまでは「中心部までのアクセスが車一択」がネックで物件選定が消極的になっていたが、2029年に鉄道が通じることが確定すれば、3〜4年スパンで物件価値・家賃水準が見直される可能性が高い。
通勤導線では、シリラート病院・タリンチャン・Salaya間が一本でつながる効果が大きい。シリラートから先はチャオプラヤー川沿いを経由してバーンスー中央駅まで既存のRed Lineに合流するため、Salayaから北部のドンムアン空港や、東北のサパンクワイ地区への直通アクセスも視野に入る。
建設リスクと工期
タイの大型鉄道プロジェクトは、これまで何度も工期延長を繰り返してきた。MRTパープルライン南延伸(タオプーン-クルチャムタウィー)は2027年開業予定だが、当初計画から2年遅れている。Red Line北延伸(ランシット-タマサート大学)も用地買収で苦戦している。
今回のタリンチャン-Salaya区間は、用地買収の主要部分が完了済みで、既存のRed Line技術仕様をそのまま延長する形のため、技術的リスクは小さい。ただし2029年7月の開業はあくまで「契約上の予定」で、雨期の工事制約とラーマ6世橋付近の地盤問題があるため、半年〜1年程度の遅れは見ておいた方が現実的だろう。
まとめ
タリンチャン-Salaya延伸の契約成立は、停滞気味だったバンコク西部の鉄道整備に久しぶりの動きが出た、というだけでもニュース価値がある。マヒドン大学Salayaキャンパスを通学先に持つ日本人留学生、Salaya一帯に住む駐在員家族、シリラート病院に通う在タイ日本人にとって、2029年7月という具体的なゴールが見えた意味は大きい。