タイのワラブット・シラパアチャー工業大臣が5月18日、2568/2569年(2025-26年)シーズンのタイ・サトウキビ焼き刈り比率が3.80%まで低下し、史上最低を記録したと発表した。過去には60〜70%にも達していた焼き刈り(事前焼却で収穫を容易にする伝統的手法)が、政府・製糖工場58カ所・農家150万人以上の連携で「ほぼ全廃」に近づいた。今後の目標はZero Burn(焼却ゼロ%)の完全達成。タイ北部・中部のPM2.5主因の一つだったサトウキビ焼却が大幅に減ることで、在タイ駐在員家庭の空気質・健康への直接的なメリットが期待される。「アオイ・タイ・ライ・フン...フン・ナーム・タン・タイ・シー・キィウ」(タイ・サトウキビ無煙、緑のタイ砂糖を推進)の標語で、農業と環境政策の両立を国際社会にもアピールする。
サトウキビ焼き刈り問題とは
タイ北部・中部のPM2.5問題で、(a)森林火災、(b)農業残渣の野焼き、(c)交通排ガス、(d)産業排出、と並んで、(e)サトウキビ焼き刈り、が主要因の一つとして指摘されてきた。
サトウキビ焼き刈りとは、収穫の前にサトウキビ畑全体に火を放ち、葉や雑草を焼き払う伝統的手法。
メリット:
- 収穫作業が劇的に楽になる
- 害虫・蛇・サソリ等が逃げる
- 機械化されていない零細農家でも収穫可能
デメリット:
特に2〜4月のサトウキビ収穫期は、タイ北部のチェンマイ・チェンライ・ランパン等のPM2.5指数が「世界最悪」レベルに達することが繰り返されてきた。
3.80%という歴史的低水準
ワラブット工業大臣が発表した数字の内訳は次の通り。
第1に、2568/2569年シーズン(2025-26年シーズン、2025年12月〜2026年3月収穫)の焼き刈り比率: 3.80%。
第2に、これは歴史上最低の水準。
第3に、過去(2010年代前半まで)は60〜70%が焼き刈りだった。
第4に、過去5年間の推移:
- 2021/22年: 約20%
- 2022/23年: 約15%
- 2023/24年: 約10%
- 2024/25年: 約6%
- 2025/26年: 3.80%(今シーズン)
第5に、政府目標: 0%(Zero Burn)の完全達成。
なぜ焼き刈りが減ったのか—3者連携の成果
ワラブット大臣は、急減の要因を「政府・製糖工場58カ所・農家150万人以上の連携」と説明した。
第1に、政府の役割:
- 焼き刈りサトウキビへの罰則強化(買取拒否・出荷停止等)
- Zero Burn農家への奨励金(生サトウキビ価格に追加加算)
- 機械化支援(収穫機の購入補助)
- 環境意識啓発キャンペーン
第2に、製糖工場(58カ所)の役割:
- 焼き刈りサトウキビの買取拒否・低価格買取
- 生サトウキビ優先買取・高価格買取
- 収穫機の貸与・派遣サービス
- 農家向けの技術指導
第3に、農家(150万人以上)の役割:
- 焼き刈りから生サトウキビ収穫への移行
- 収穫機の導入(共同購入・レンタル利用)
- 機械化作業の習得
- 焼き刈りに依存しない労働力確保
これら3者の連携が、過去5年間で「焼き刈り60%→3.8%」という劇的な転換を実現した。
PM2.5削減効果—在住者の健康への意味
サトウキビ焼き刈り削減のPM2.5削減効果は大きい。
タイのPM2.5発生源のうち、サトウキビ焼き刈りの寄与は北部地域で20〜30%とされてきた(残りは森林火災、農業残渣の野焼き、交通排ガス等)。
3.80%まで削減された結果、(a)2026年2-4月のPM2.5指数の改善、(b)チェンマイ・チェンライの「世界最悪」評価の改善、(c)在タイ駐在員家庭の呼吸器疾患リスク低下、が期待される。
ただし、(i)森林火災・農業残渣野焼きは依然残る、(ii)隣国(ラオス・ミャンマー・カンボジア)の焼き刈りは規制対象外、(iii)交通排ガスは増加傾向、で「サトウキビだけ解決ではPM2.5問題は完結しない」点に注意。
砂糖の品質向上にもメリット
焼き刈り削減の副次効果として、砂糖生産効率の向上もある。
生サトウキビは焼き刈りサトウキビよりも、(a)糖度が高い、(b)汚染物質が少ない、(c)製糖工程の効率が良い、というメリット。
結果として、(i)1トンのサトウキビから取れる砂糖の量が増加、(ii)タイ砂糖の品質・国際競争力が向上、(iii)輸出単価の上昇可能性、が見込まれる。
タイは世界第2位の砂糖輸出国(首位はブラジル)。タイ砂糖の「グリーン化(環境配慮)」は、EU・米国・日本の購買企業からの評価向上に直結する。
EU・グローバル市場でのアピール
ワラブット大臣は、「アオイ・タイ・ライ・フン...フン・ナーム・タン・タイ・シー・キィウ(タイ・サトウキビ無煙、緑のタイ砂糖を推進)」の標語で、国際市場へのアピール戦略を強化する方針。
EU・米国・日本の食品・飲料企業は、サプライチェーン全体の「カーボンフットプリント」削減を求める動きが加速。タイの「焼かない砂糖」は、(a)EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)への対応、(b)グローバル企業のESG基準達成、(c)グリーン・プレミアム(環境対応で価格上乗せ)、を狙える。
関連背景
タイ駐在の日本人家庭にとって、サトウキビ焼き刈り削減は次の意味を持つ。
第1に、PM2.5の改善。特に北部居住の駐在員家庭(チェンマイ・チェンライ・ランパン)にとっては、2-4月の空気質が大幅改善の見込み。
第2に、子供の呼吸器疾患リスク低下。タイ駐在員の子供で気管支炎・喘息を発症するケースが多い中、改善期待。
第3に、屋外活動の増加。スポーツ・キャンプ・観光等の屋外活動の制約が緩和。
第4に、北部観光地の魅力回復。チェンマイ・チェンライ・ランパン等の観光業の活性化。
第5に、日系食品・飲料メーカーへの影響。タイ砂糖を原料とする日系企業(味の素、明治、サントリー等)のESG評価向上。
残るZero Burn達成への課題
3.80%から0%への最後の1段が、最も難しい。
第1に、零細農家の取り残し。資金力・機械化の遅れた農家が、依然焼き刈りに依存。
第2に、サトウキビ畑の地形。山間部・斜面・小規模畑では機械化が困難。
第3に、季節労働力不足。生サトウキビ収穫は焼き刈りの3-5倍の労力が必要。
第4に、罰則の徹底化。焼き刈りを行った農家への確実な罰則執行。
第5に、ベトナム・ミャンマー・カンボジアからの違法越境労働者の確保(タイ農業は安価な外国人労働力に依存)。
今後の動き
ワラブット大臣は、Zero Burn達成に向けて次の取り組みを示した。
第1に、2027/28年シーズンまでに2%以下を目指す。
第2に、2029/30年シーズンまでに完全Zero Burn達成。
第3に、製糖工場の買取条件をさらに厳格化。
第4に、機械化補助金の継続・拡充。
第5に、隣国(ラオス・カンボジア)との合同煙害対策。



