タイ国家経済社会開発委員会(NESDC、サパパット)のタヌチャー・ピチャヤナン事務局長が5月18日午前に記者会見を開き、2569年(2026年)第1四半期のタイGDPが前年同期比+2.8%成長したことを発表した。2568年(2025年)第4四半期の+2.5%から加速。投資総額は+9.9%で、2558年(2015年)以来44四半期ぶりの高水準を記録した。民間投資は+10.1%、輸出は+17.8%で950億9,600万ドル。タイ駐在の日系製造業・自動車産業にとっては、設備投資・輸出環境の改善を示す追い風データだ。一方で、中東情勢による油価高騰、輸入急増による貿易赤字復活など、後半リスクも明示された。通年GDP予測は+2.0%とやや保守的だ。
Q1 +2.8%、前四半期から加速
NESDCの発表によれば、タイGDPは2569年第1四半期に+2.8%成長した。これは、(a)前四半期(2568年Q4)の+2.5%から加速、(b)2568年通年成長率(推定+2.5%)も上回るペース、(c)タイ中銀の年初予測値(+2.5〜3.0%レンジ)の上限近くで着地、という内容だ。
主因は、(i)国内投資の急回復、(ii)輸出の力強い伸び、(iii)観光業の継続成長、の3本柱が同時に動いたことにある。
民間消費・政府支出も引き続き拡大基調を維持しており、消費の冷え込みは見られない。
投資+9.9%は2015年以来44四半期ぶりの高水準
最も注目すべきは投資の急回復だ。投資総額は+9.9%で、2558年(2015年)以来44四半期ぶりの高水準。
内訳は次の通り。
民間投資は+10.1%。主要要因は機械・設備・自動車関連の投資増加だ。日系を含む製造業各社が、(a)旧モデルから新モデルへの設備刷新、(b)EV製造ラインの新設、(c)タイ国内向け需要拡大に対応した生産能力増強、を進めていることが背景にある。
公共投資も、政府の景気下支え政策(インフラ投資・公共事業の予算執行加速)により拡大している。
タイ駐在の日系メーカーにとっては、(a)EV用部品サプライチェーンの強化、(b)現地生産能力増強、(c)輸出基地としてのタイの魅力再評価、を後押しするデータと言える。
輸出+17.8%、950億ドルの大台
輸出は、商品・サービス合計で+17.8%。商品輸出だけで950億9,600万ドルに達した。
牽引役は電子機器・電気製品。世界的なAI関連需要の高まりで、半導体・データセンター向け部品・電気製品の輸出が伸びた。
タイは長年、自動車・農産物(コメ・天然ゴム・キャッサバ)の輸出国として知られてきたが、ここ数年は電子機器の比率が急速に高まっている。Q1の成長加速は、その構造転換が成果を出し始めた局面だ。
ただし、輸入も+33.1%と急増しており、結果として貿易収支は14四半期ぶりの赤字に転落した。これは、輸出向け部品の調達増加、設備投資のための機械輸入、油価高騰による燃料輸入額の増加などが重なった結果。
観光業も継続成長、収入7,590億バーツ
観光業は引き続き経済の柱となっており、Q1の観光収入合計は7,590億バーツ(約3兆5,000億円相当)。前年同期比+3.8%。
中国本土からの観光客回復、インド・中東諸国からの新規流入、欧州からのリピート訪問などがバランスよく伸びている。
タイ駐在員家庭にとっても、観光業の継続成長は、(a)バンコク・プーケット・チェンマイ等の主要都市での飲食店・サービス業の安定、(b)現地通貨バーツの安定(輸出+観光収入で経常黒字維持)、を意味する。
通年予測は+2.0%と保守的
NESDCの2569年通年GDP予測は+2.0%。Q1の+2.8%実績から見ると、後半は減速を見込む内容だ。
理由として、ダヌチャー事務局長は次を挙げた。
第1に、中東情勢(イスラエル・ガザ、UAE核施設攻撃等)による油価高騰の継続。これがタイ国内の生活費を圧迫する。
第2に、米国トランプ政権の関税政策の不確実性。タイの対米輸出依存度は約15%で、関税引き上げが直接打撃となる。
第3に、家計債務の高止まり(GDP比約90%)。これが消費の上限を抑える。
第4に、Q1の高い輸入伸び(+33.1%)が今後の貿易赤字拡大につながる可能性。
ただし、上方修正余地もある。観光業の回復ペース次第、国内投資の継続、米国経済の堅調維持、などが続けば、年央〜Q3で予測値を上方修正する可能性もNESDCは示唆した。
関連背景
タイ駐在の日系企業・駐在員にとって、今回のNESDC発表は前向きな材料だ。
第1に、日系製造業の設備投資環境改善。EV・電子機器の生産拡大に向けた投資が拡大局面に入っている。
第2に、貿易赤字復活はバーツ安要因。バーツ安は、(a)日本本社からの送金・赴任者の給与の現地購買力に影響、(b)現地調達コストの上昇、(c)逆に日本向け輸出の追い風、と複雑に効く。
第3に、観光業の継続成長は、駐在員の生活インフラ(飲食・小売・娯楽)の安定を意味する。
第4に、油価高騰による生活費圧迫はタイ人にも在タイ日本人にも共通の懸念。スーパー・タクシー・電気代の値上がりに引き続き注意が必要。
NESDCの後半リスク警告に注意
ダヌチャー事務局長は記者会見で、後半リスクとして以下を強調した。
(a) イスラエル・イラン関連の中東情勢が長期化すれば、タイの石油輸入コストはさらに上昇。タイの石油基金は既に毎日約25億バーツの赤字を計上しており、財政負担が拡大中。
(b) 米国トランプ政権の対タイ関税が引き上げられれば、タイの対米輸出(特に自動車・電子機器)に直接打撃。
(c) タイ中銀の金融政策(政策金利)の動向。インフレ抑制と景気下支えのバランスをどう取るかが今後の焦点。
(d) 中国経済の動向。中国からの観光客回復ペースと、中国経由の輸出競争(タイのASEAN市場でのシェア争い)の両面で影響。



